51歳営業部長、自分では気づかぬ変化
「嫌な言い方をする上司だな、あんな風には絶対ならないぞ」
若い時、確かにそう思っていたはずなのに、いつの間にか同じような振る舞いをしている。そんなケースは意外と少なくありません。
都内のメーカーに勤める黒田健一さん(仮名・51歳)も、その一人。新卒から営業一筋。若い頃は「詰められ、怒鳴られて当たり前」の環境で揉まれてきました。当時は、それが許される環境だったのです。
かつては上司に反発することもあり、「古いやり方だ」「圧力では成果は出ない」と感じていたといいます。しかし、年収900万円を超える営業部長になった頃から、黒田さんのスタンスは少しずつ変わっていきました。
部下の数字が伸びなければ「なぜできない」ときつく詰める。報告が遅れれば「それで通用すると思っているのか」と声を荒らげる。
かつて嫌悪感を抱いていたはずの言動を、自分自身がしている――そんな場面が増えていきました。
転職してきた新人登場→一変した社内の空気
それは、「結果を出させるには厳しさが必要」という責任感からの言動でした。ただ、周囲には真意が伝わりにくく、今の時代とのズレも否めませんでした。
実際、若手の中には「パワハラではないか」とコンプライアンス窓口に相談する者も現れます。それでも黒田さんは変わりませんでした。「自分の時代に比べれば、まだ甘い方」とすら思っていたのです。
転機は会議の場で訪れました。未達の部下を厳しく追及していたとき、転職してきた若手社員が口を開きました。
「その言い方、きつすぎませんか? それで成果が出るとは思えません。この会社では、これが普通なんですか?」
場が凍りつきました。誰もが感じていた違和感が、はっきりと言葉にされた瞬間でした。
これを機に、黒田さんの立場は急速に厳しくなっていきます。コンプライアンス部門からのさらなる注意、部下たちの距離感。そして最終的には、未経験に近い部署への異動を打診されました。
事実上の左遷ともいえる人事に、黒田さんは悩んだ末に退職を決意します。「外に出ても、自分の実力ならやっていける」。そう信じていました。

