家庭の空気まで変えた“物価高”
関東の戸建てで義母と同居する理恵さん(仮名・44歳)は、3年前から夫と中学生の長男、そして義母・峰子さん(仮名・74歳)との4人暮らしを続けています。もともとは義父の死後、一人暮らしになった峰子さんを気づかって始めた同居でした。
「夫が“母さんも心細いだろうし、いずれ介護のこともあるから”と言って。私も最初は、そのほうが安心かなと思ったんです」
峰子さんは遺族年金と自身の年金で生活しており、家に一定額を入れてはいるものの、家計の主な管理は理恵さん夫婦が担っていました。問題が目立ち始めたのは、電気代やガス代が上がり始めた頃だったといいます。
「最初は“電気、こまめに消してね”くらいだったんです。でも、だんだん細かくなっていって……」
冷暖房の使用時間、炊飯器の保温時間、洗濯機を回す回数。峰子さんは、目につくたびに口を出すようになりました。理恵さんも値上がりの厳しさ自体は理解していましたが、次第にそれは“助言”ではなく“監視”に近いものになっていきました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯の「光熱・水道」支出は月2万4,547円で、前年より名目6.2%増加しています。高齢世帯にとって、光熱費の上昇が家計不安を強めるのは不自然ではありません。
ただ、峰子さんの節約は、家族の生活リズムを乱すところまで進んでいきました。
「お風呂も“2日に1回で十分でしょ”と言われるようになったんです。最初は冗談かと思いました」
理恵さんはパート勤務のあと、夕食の支度や片づけを済ませてから入浴するのが日課でした。しかし峰子さんは、追い焚きの回数や湯量が気になるらしく、「今日はシャワーにしたら?」「昨日入ったんだから、今日は体を拭けばいいじゃない」と平然と言うようになったといいます。
長男が部活で汗をかいて帰宅した日も、「毎日たっぷり湯船につかる必要はない」と言われたことがありました。
「息子は何も言い返しませんでしたけど、明らかに困っていました。思春期ですし、気にする年頃でもありますから」
それでも理恵さんは、なるべく波風を立てまいと我慢してきました。高齢の義母には義母なりの不安がある。そう自分に言い聞かせていたのです。
