相続発生。設計図が「現実」を救うとき
Fさんのご家庭では、父親(90代)が保有する総資産約4億4,000万円の相続を見据え、生前から対策を進めていました。広大な自宅土地の評価見直しや、母親名義の預金の整理、家族間での意思共有など、いわゆる「相続設計」を段階的に進めていたのです。
そうした準備を進めるなか、対策開始から半年後、父親が逝去。相続は現実のものとなりました。
肉親を亡くした悲しみは計り知れません。しかし、相続税の申告期限は死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内と定められており、その準備は待ってくれません。
通常であれば、相続発生後に戸籍謄本の取得から始まり、預金や不動産などすべての財産を確認・評価し、遺産分割を決めたうえで、相続税の申告と納税を行う必要があります。葬儀などで多忙な遺族にとって、この一連の手続きは大きな負担となります。
しかし、Fさんには迷いはありませんでした。
生前に父親とともに作り上げた「相続設計」という確かな指針が手元にあり、さらに専門家の継続的なサポートがあったからです。私たちは迅速かつ冷静に、その設計図をもとに実務へと移行しました。
土地評価の再検討――「机上の空論」を現場で覆す
いよいよ、実務としての相続税申告準備が始まりました。改めて、提携税理士とともに現地調査を実施しました。
Fさんのご実家は広大な敷地を有しています。
雑種地・山林等:約1,188㎡
合計:約2,124㎡(約640坪)
当初、他社による簡易査定では、この土地は一律の宅地評価に近い形で算定され、評価額は約2億円とされていました。
しかし、測量図と現地の状況を突き合わせて精査した結果、次の3つの視点から評価減を適用しました。
・形状と地目による精緻な切り分け
敷地奥の雑種地や山林として登記されている部分には、急傾斜地(がけ地)が含まれていました。これらを一体の宅地として評価するのではなく、利用の難しさを踏まえて区分評価を行いました。
雑種地部分(平坦地):約4,380万円
山林・傾斜地部分:約454万円
・「小規模宅地等の特例」の戦略的適用
自宅敷地の評価を最大80%減額できる特例を活用し、配偶者が自宅を相続する前提で、330㎡分について約1,921万円の評価減を適用しました。
・評価圧縮の結果
これらの精査と特例の適用により、当初約2億円とされていた土地評価は、最終的に8,623万円(特例適用後)まで圧縮することができました。
遺産分割の黄金パターン「代償分割」が家族を救う
土地評価が固まった後の課題は、「誰が何を相続するか」という遺産分割です。Fさんのケースでは、財産総額は評価ベースで3億5,117万4,000円となりました。
ここで提案したのが、二次相続(母親の相続)まで見据えた「土地は母親、現預金は長男」という分割と、それを調整する代償金の活用です。
【今回の分割内容】
母親:自宅と土地を中心に相続
土地(約1億544万円)、建物(571万円)、生命保険金(145万円)ほかに加え、Fさんから代償金5,071万8000円を受け取り、最終的に母親とFさんが50%ずつ相続する形としました。
遺産分割は「50%ぴったり」に
・配偶者控除のフル活用
母親の取得分(1億6,234万2000円)は配偶者の税額軽減の範囲内に収まり、相続税は0円となりました。
・Fさんの納税資金確保
不動産は母親、金融資産はFさんとすることで、Fさんは相続した預金から相続税3,953万7,000円を無理なく納付できます。
・納税額の最適化
金融資産が多くなりすぎないよう、代償金で調整し、相続税負担を最小限に抑えました。この「代償金5,071万8,000円」は、現在と将来の税負担を最適化するために導き出された、戦略的な金額です。
納税額は当初試算の「3割」へ
最終的な相続税額は、当初の試算である1億2,850万円から、3,953万7,000円(母親0円、Fさん分のみ)まで大きく圧縮されました。
結果として、約9,000万円もの納税額を適法に削減できたことになります。
費用の前払いという「最後の一手」
さらに節税効果を高めたのが、費用の前払いという選択です。
Fさんは相続発生の半年前にコンサルティング契約を締結し、400万円を支払っていました。この支出により、相続財産となる現金が事前に圧縮されることになります。
その結果、相続税率40%の区分において、約160万円の節税効果が生まれました。
結びに代えて:相続は「準備」で決まる
Fさんの事例は、「相続設計」が現実のリスクを回避した好例といえます。事前に設計図を描き、財産の全体像を把握したうえで、適切な対策を講じていたからこそ、不安なく相続を迎えることができ、結果として財産の目減りも防ぐことができました。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
