「年収的に厳しいかも」という不安を打ち消した営業マンの言葉
「家なんて、真面目に働いていれば誰でも買えるものだと思っていました。まさか自分たちが、スタートラインにすら立てないなんて……」
都内の賃貸アパートに妻と2歳の娘と3人で暮らす会社員の借田夢夫さん(仮名・32歳)は、先日届いた住宅ローンの審査結果通知を見つめながら、肩を落としました。
借田さんの年収は昨年度の源泉徴収票で約380万円。パート勤務の妻の収入約100万円を合わせると、世帯年収は480万円ほどになります。決して裕福とはいえませんが、毎月堅実に貯金をし、大きな借金もありません。
マイホームを意識し始めたのは、娘が歩き始め、アパートの階下から足音に対する苦情が入るようになったことがきっかけでした。
「子どもをのびのび育てたいし、家賃を払い続けるのももったいない。そろそろ買い時かなと思ったんです」
週末、家族で訪れた住宅展示場で、借田さんは一軒の建売住宅に一目惚れしました。価格は3,200万円。予算オーバーかと思いましたが、担当の営業マンは笑顔でこういいました。
「今の金利なら月々の返済は8万円台です。今の家賃と変わりませんよ。旦那様の年収なら、奥様の収入を合算しなくても審査に通る可能性は十分あります」
その言葉に、借田さんの胸は高鳴りました。自分も一国一城の主になれる。広いリビングで娘が走り回る姿が目に浮かびました。妻も「ここならキッチンも広いし、夢みたい」と目を輝かせています。
その日のうちに事前審査の書類を書き上げ、夢のマイホーム生活はすぐそこまで来ていると信じて疑いませんでした。
突きつけられた「総合的判断」という名の拒絶
しかし、数日後に電話で告げられた結果は「否決」でした。
信じられない思いで理由を尋ねましたが、返ってくるのは「総合的な判断により」という定型句のみ。営業マンの態度も、心なしか以前よりよそよそしく感じられました。
「実は、他に車のローンが残っているとか、クレジットカードの支払いが遅れたことはありませんか?」
営業マンにそう聞かれましたが、借田さんには心当たりがありません。スマホ代の支払いも遅れたことはなく、消費者金融の利用歴もありません。
納得がいかず、自分でネット上の情報を調べ回りました。そこで初めて、返済比率という壁や、審査金利という厳しめの基準で計算される現実を知りました。年収380万円で3,200万円の借入れは、年収の8倍以上。金融機関からすれば、リスクが高すぎると判断されたのです。
「3,000万円以上の借金を背負う覚悟はできていたつもりでした。でも、銀行からは『あなたにはその信用がない』といわれたような気がして。妻に対して情けないやら、悔しいやらで……」
妻は「またお金を貯めて、もっと安い中古を探そう」と励ましてくれましたが、借田さんのショックは癒えません。
「正直、自分たちは『普通』の家庭だと思っていました。でも、家を買うという土俵においては、平均以下だったんです。もっと現実を直視すべきでした」
色あせた物件のチラシをゴミ箱に捨てながら、借田さんは深くため息をつきました。マイホームという夢は、今の借田家にとってはまだ、あまりにも遠い場所にあったのです。
マイホーム購入者の平均世帯年収は「772万円」
借田さんのように、平均的な暮らしをしていれば家は買えるはずと考える人は少なくありません。しかし、実際のデータを見ると、マイホーム購入者の収入水準は想像以上に高いことがわかります。
SMBCコンシューマーファイナンス株式会社が発表した「婚活・結婚に関する意識・実態調査」によると、マイホームを購入した既婚者の世帯年収(額面)の平均は「772万円」でした。
借田さんご夫婦の世帯年収480万円と比較すると、約300万円もの開きがあります。このデータからは、夫婦共働きで正社員として収入を得ている、いわゆるパワーカップルや、それに準ずる世帯が平均値を押し上げている背景がうかがえます。
また、同調査では「子どもを1人もうけたときの世帯年収」の平均も「733万円」となっており、子育てと住宅取得を両立している層の経済基盤が厚いことがわかります。
かつては「年収の5倍まで」が住宅購入の目安といわれていましたが、物件価格の高騰が続く現在、その常識は通用しなくなっています。平均値という数字の裏には、こうしたシビアな現実が隠されていることを認識し、慎重に資金計画を立てる必要があるでしょう。
[参考資料]
SMBCコンシューマーファイナンス「婚活・結婚に関する意識・実態調査」
