「老後資金は十分」だが…気づかなかった“家族との距離”
修一さん(仮名・77歳)は、現在、月18万円ほどの年金を受け取りながら生活しています。
会社経営に携わっていた時期もあり、退職時点で一定の資産を形成。預貯金や金融資産、不動産などを合わせると、総資産は約7,500万円ありました。
「金銭的には困っていませんでした。むしろ、“子どもに残せるものがある”と思っていたくらいです」
妻を10年前に亡くした後も、修一さんは都内の持ち家で一人暮らしを続けていました。子どもは二人。長男は50代前半、長女は40代後半で、それぞれ家庭を持っています。
ただ、家族関係は以前からどこかぎこちないものでした。
修一さんは仕事一筋の人生を送ってきました。家にいる時間は短く、子どもが幼い頃の行事にもほとんど参加していません。
「仕事をして家族を養うのが父親の役目だと思っていたんです」
本人に悪気はありませんでした。しかし、長男にとっては違いました。
子どもの頃、父に褒められた記憶がほとんどない。成績や進路には厳しく口を出される一方、気持ちを聞かれたことは少なかったといいます。
それでも、表面的には関係は続いていました。盆や正月には顔を合わせ、修一さんも孫にお年玉を渡していました。
転機は、修一さんが体調を崩したことでした。
軽い脳梗塞で入院し、退院後、長男が実家へ通うようになります。通院の付き添い、役所手続き、保険関係の確認。長男は仕事の合間を縫って対応していました。
その中で、修一さんは何気なくこう言ったといいます。
「俺の資産、ちゃんと整理しといたほうがいいぞ。相続で揉めると面倒だからな」
長男は黙っていました。さらに修一さんは続けました。
「お前たちに迷惑かけるつもりはない。財産も残るんだから文句ないだろ」
その瞬間、長男の表情が変わったといいます。
「一円もいらないから、もう関わらないで」
修一さんは、何を言われたのか理解できませんでした。
