覚悟の「代償分割」…家を守るための唯一の選択
話し合いは難航し、高齢の母親が自分のわずかばかりの預金を工面できないか、と申し出てくれましたが、Aさんは断りました。「それはお母さんのために取っておいて。いつ病気になるかわからないんだから」母の余生を第一に考えるAさんにとって、その選択肢はありませんでした。
Aさんは悩んだ挙句、代償分割しかないと覚悟しました。
代償分割とは、弟が提案したように、分割できない相続財産を受け取るかわりに代償金を支払う方法です。この方法には大きなメリットが3つあります。
公平性の確保:わけにくい不動産を、現金によってきっちり分割できる。
住まいの確保:大切な実家を売却せずに、今の生活を維持できる。
節税の最大化:同居しているAさんが全筆を相続することで、相続税を最小限に抑えられる。
問題は、やはり代償金を支払うだけの資力が必要な点。それとともに問題となるのが、代償分割の根拠となる財産(不動産)の評価です。支払う側はなるべく低く評価されたいですが、請求する側はなるべく高く評価されたいのが当然ですので、この点にずれが生じます。
兄弟で、納得がいくまで粘り強く話し合いを重ねました。Aさんのこれまでの介護の苦労や、母親を今後も看ていくという負担を弟も汲み取ってくれたのでしょう。一括では到底無理な金額でしたが、最終的に代償金を「分割払い」にすることで合意に至ったのです。
大切なのは「評価の根拠」と「話し合い」
Aさんは代償分割という道を選んだことで、先祖代々の土地を守り、同時に母親の安心も守ることができました。相続税が最小限に抑えられたことで、将来的な支払い計画に見通しが立ったことも大きな救いとなりました。
今回のケースのように、不動産が資産の大半を占める家庭での相続は、感情と理屈がぶつかり合い、泥沼化することも珍しくありません。Aさんが解決できた鍵は、「母親の生活を最優先にする」というブレない軸と、代償分割という制度を前向きに活用した点にあります。
もし「わけにくい不動産」の相続が予想されるなら、まずはその価値を正確に知り、将来的に「誰が」「どう住むか」を家族で早めに話し合っておくことが、揉めない相続への第一歩となるでしょう。
木戸 真智子
税理士事務所エールパートナー
税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
調査官は重加算税をかけたがる
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