押し入れの奥に残っていた封筒
それから半年後、父は急逝しました。葬儀を終え、謙介さんは実家の整理に取りかかりました。長年住んでいた家の中には、父の生活の痕跡がそのまま残っていました。
押し入れの奥に、古い衣装ケースがありました。中には封筒がいくつも重なっていました。開けると現金でした。
一つ一つ数えていくと、合計は約280万円。封筒には日付が記されており、毎月4万円、10年間分がほぼそのまま残っていました。
つまり父は、仕送りをほとんど使っていなかったのです。
さらに机の引き出しから一枚のメモが見つかりました。父の字でこう書かれていました。
「自分のことは自分で」
謙介さんはその言葉を見たとき、父の中にあった線引きを初めて理解したといいます。
「父にとって仕送りは“使うお金”じゃなかったんだと思います」
父は困っていなかったわけではありません。年金9万円の生活は決して楽ではなく、日常は質素でした。ですが父は、子の援助を生活費として消費することには強い抵抗があったようです。
受け取ることと使うことは、父の中で意味が異なっていました。
受け取るのは「息子の気持ちを受け止めること」
使うのは「子に頼ること」
父は前者は受け入れ、後者は避けていたと考えられます。
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』によると、70歳代単身世帯の金融資産平均保有額は1,529万円です。一方で資産状況を家族に伝えていないケースも多く、高齢世代の家計実態は周囲から見えにくい傾向があります。
280万円の現金は、その後相続財産として整理されました。謙介さんは言います。
「父は最後まで、自分の生活は自分でという人だったんですね」
仕送りを止めた電話の意味も、今では少し理解できるといいます。
「頼らずに生きてきた自分を守りたかったんだと思います」
親子間の経済的な支え合いでは、必要額や家計状況だけでなく、「援助をどう受け止めているか」という感覚の差が生じることがあります。その差が見えないまま続いたとき、善意のやり取りもまた、すれ違いとして残ることがあるのです。
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