後期日程重視への反対
そこで私は2011年、当時の𠮷岡章学長に後期日程重視の構想を提案し、「入試改革委員会」をつくっていただいた。委員は当初10人規模で構成する案が示された。だが、それでは議論が冗長になりかねない。5人に絞り込むことを提案し、私は入試改革委員会委員長として改革案のとりまとめに着手した。従来の慣行を大きく転換し、後期日程を重視する入試戦略だ。
しかし、医学科教授会で待っていたのは多くの反対だった。最大の理由は、「全国から優秀な学生を集めると、卒業後の臨床研修の段階で県外の病院を希望する学生が増える」というものだ。
背景には、2004年に義務化された新医師臨床研修制度がある。新卒医師が大都市の研修病院に流出し、地方の大学病院は深刻な医師不足に直面していたのだ。各科の教授たちは、とにかく一人でも多くの新卒医師を自らの医局に入れたいと思っていた。そのため「全国から学生を集める」という私の提案は、かえって人材流出を招くリスクと捉えられた。
また、「いったん奈良医大に入学後、在籍したまま東京大学理科3類や京都大学医学部を再受験する仮面浪人が出るのではないか」という危惧も示された。実際、改革当初の数年間は数人の仮面浪人が存在したが、その後は減少した。
私はこうした反対を前に、正面から説得を試みた。将来、世界に認められる研究者や医師を育成するには、やはり優秀な学生の確保が欠かせない。
そこで、反対した教授たちの研究室を一つ一つ訪ね歩いて「優秀な学生を、さらに優秀にして送り出すことこそ教育者の使命ではありませんか」と繰り返し語りかけた。卒業生を奈良県内に残すには、キャリアの構築支援など、また別の取り組みが必要だ。こうした私の主張に理解を示す教授が少しずつ増えていった。
採決をとったのは2011年6月14日の教授会だった。賛否が拮抗する中で、後期日程重視の入試改革案は、僅差で賛成票が反対票を上回った。これにより、2013年度の入試から奈良医大は全国的にもまれな「後期日程重視」への転換を正式に決定したのである。
全国トップクラスへの躍進
奈良医大では2013年度入試から、従来の枠組みを大きく転換し、後期日程に募集定員の多くを振り分ける戦略を開始した。直近の2024年度入試の本学医学部医学科の募集定員は、推薦入試37人(地域枠22人・緊急医師確保枠15人)、一般入試前期日程22人、一般入試後期日程53人で、後期日程に重点的に募集定員を配分している。
全国の医学部において後期日程の募集定員はごく少数で、多くの大学が前期日程一本で実施していた。その中で奈良医大があえて後期日程を主軸に据えたことは、当時としては大胆な挑戦だったと思う。
入試改革後、奈良医大の後期日程入試には、全国から優秀な受験生が集まるようになった。これは、大手進学塾などが発表する入試偏差値という形で成果が出ている。図表1のグラフは、河合塾が毎年発表している入試難易度予想ランキングから作成した。後期重視戦略により、偏差値が70台となっていることが分かる。
偏差値は、全国の進学希望者や高校の進路指導担当者が重視する基準の一つである。ただし、募集定員が少ないと推定誤差が大きくなり、偏差値の信頼性が低下する。定員5人のみで70台になるのと、50人で70台になるのとでは、意味合いが異なる。そこで、入試改革を念頭に掲げて以来、私は一貫して、募集定員が50人以上ある日程の入試、すなわち各大学が重点的に配分する日程に限って比較を行うようにしてきた。
図表3のランキングは、この方法に基づいたものだ。河合塾のデータで、2026年度の募集人数50人以上の国公立医歯薬系入試の二次試験偏差値を見ると、奈良医大後期(募集定員53人)の二次試験偏差値は70.0で、72.5 の東大理3( 前期・同97人)、京大医学部(前期・同103人)に次いで第3位となっている。
年度によって若干の変動はあるものの、2013年度の入試改革以来、奈良医大後期日程入試の偏差値は、常に70以上で全国トップクラスの仲間入りを果たしている。
改革当初に寄せられた「全国から学生を集めても、卒業後に県外に流出してしまうのではないか」という懸念は確かに無視できない。しかし、入試の目的を「優秀な学生の獲得」と明確に定め、そのための戦略を一貫して実行したことで、奈良医大は全国医学部の中で存在感を大きく高めることができた。県内定着をいかに実現するかという課題は別途の取り組みで対応すべきであり、入試改革の本旨をぶらさずにいたことが功を奏したといえる。
細井 裕司
奈良県立医科大学
理事長・学長
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![([図表2]より、筆者が定員50人以上の入試区分の集計を行ったもの)](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/3/d/540/img_3dac2fbb62b35ffb0ced736956be3ca888465.jpg)