かつての部下が上司に…社内で「妖精さん」と化した現実
「今の仕事ですか? 過去の会議議事録の整理と、郵便物の仕分けです。これで給料をもらっているんですから、給料泥棒といわれても仕方ありません」
中堅商社に勤めるコダマさん(仮名・53歳)は、かつて営業課長としてバリバリ働いていましたが、現在は総務部の片隅にあるデスクが定位置です。
3年前、会社は50歳以上を対象とした早期退職を募集しました。 条件は、退職金への1,500万円の上乗せ。額面で3,000万円以上になるパッケージでした。
コダマさんも悩みましたが、「今の年齢で外に出るのは怖い」「会社に残れば、なんだかんだで定年まで面倒を見てくれるだろう」という甘い見通しで、応募を見送りました。
しかし、リストラ終了後、会社に残った中高年社員への扱いは一変しました。 コダマさんの部署は解体され、異動した先の上司は、なんと一回り年下の元部下でした。
「『コダマさん、このデータ入力、明日までにお願いしますね。簡単なんで』と、若手社員でもできるような仕事を振られます。重要な会議には呼ばれず、私の席の周りだけ空気が止まっているようです」
社内では、仕事がなくパソコンの前でただ時間を潰しているおじさん社員を「妖精さん」と呼ぶ風潮があります。コダマさんは、まさに自分がその妖精になってしまったことを自覚しています。
「退職金上乗せ」の提案に乗らなかった後悔
給与も以前と比べると悲惨です。役職が外れたことで年収は3割減。さらに、評価制度の変更で「成果を出していない」と見なされ、ボーナスは寸志程度にまでカットされました。
「こんなことなら、あのとき3,000万円をもらって辞めておけばよかったと、毎日後悔しています。当時は『退職金上乗せなんて、体のいい厄介払いだ』と怒っていましたが、あれは会社からの『最後の温情』だったんです。『これだけ払うから、これ以上ここにいてもあなたの席はありませんよ』というメッセージを、私は読み違えました」
今から転職しようにも、3年間まともな業務経験がない53歳を採用してくれる企業などないと悟っています。
コダマさんは今日も、ほとんど誰とも口をきくことなく、パソコンの前で定時が来るのをただ待っています。かつての部下たちが忙しく働く中で、自分だけが何の役割も与えられないという疎外感は、想像以上に精神的な負担となっているのです。
「黒字リストラ」に待っている過酷な現実
東京商工リサーチの「2025年 上場企業『早期・希望退職募集』状況」によると、上場企業による「早期・希望退職募集」の人数は1万7,875人に達したことが明らかになっています。この数字の裏側には、コダマさんのように「応募しなかった人たち」の存在があります。
このデータで特徴的なのは、募集企業の多くが「構造改革」や「事業ポートフォリオの見直し」を掲げている点です。これは、会社の方針に合わない人材、特に高コストな中高年社員を排除したいという意思表示であると推測できます。
企業側にとって、早期退職に応じなかった社員は「変わる気がないコスト」と見なされるリスクがあります。その結果、コダマさんのようにリストラ対象外の部署へ追いやられたり、極端な降格人事を受けたりする、「追い出し部屋」的な処遇を受けるケースも少なくありません。
「早期退職=危険」「残留=安全」という図式は、もはや過去のものです。提示された割増退職金は、その後の社内での厳しい扱いを避けるための「手切れ金」としての意味合いも含んでいることを、知っておく必要があるでしょう。
[参考資料]
東京商工リサーチ「2025年 上場企業『早期・希望退職募集』状況」
