理想と現実の狭間でゆれる20代夫婦
「若いうちに産みたいって気持ちはわかるけど、今の稼ぎじゃ、子どもなんて絶対にムリだよ」
都内の賃貸アパートで暮らす望子さん(仮名・24歳)は、夫の堅太さん(仮名・26歳)からそう諭され、言葉に詰まってしまいました。2人は学生時代から交際を続け、1年前に結婚したばかりの20代夫婦です。現在の年収は堅太さんが約400万円、事務職の望子さんが約300万円で、合わせると世帯年収は700万円ほどになります。
望子さんは20代前半のうちに1人目の子どもを産みたいと考えており、最近になって堅太さんにその思いを打ち明けました。共働きでそれなりに生活できているため、堅太さんも賛成してくれると信じていたのです。
しかし、家計の管理をしている堅太さんの反応は、望子さんの想像以上にシビアなものでした。
「もし今子どもができたら、君は産休と育休に入ることになる。その間の収入はどうするの」
堅太さんの指摘はもっともでした。育児休業給付金が出るとはいえ、一時的に収入は減少します。さらに保育園に入れず退職することにでもなれば、望子さんの収入はゼロになってしまいます。
「俺の毎月の手取りは20万円台後半だよ。そこから今の家賃と生活費を払って、さらにおむつ代やミルク代を捻出するなんて、どう計算しても赤字になる」
望子さんは「なんとかなるよ、私も早めに仕事に復帰するし」と食い下がりましたが、堅太さんの不安は目の前の生活費だけにとどまりませんでした。
子を持つことに対する重圧
「ネットのニュースやSNSを見ていると、子ども1人を大学まで行かせるのに3,000万円かかるって書いてある。今の俺たちにそんな大金を用意できるわけがない」
堅太さんのスマートフォンには、子育てにかかるリアルな費用のシミュレーション記事がいくつも保存されていました。自身が子どものころ、両親がお金のことで口論している姿を見て育った堅太さんは、自分の子どもには絶対に金銭的に惨めな思いをさせたくないという強い責任感を持っていました。だからこそ、十分な経済基盤がないまま親になることへの恐怖心が人一倍強かったのです。
「世帯年収がもっと上がるか、貯金が最低でも500万円を超えるまでは、子作りは絶対にストップしたい。無理に産んで生活が破綻したら、それこそ子どもがかわいそうだ」
堅太さんの口調は真剣そのものでした。望子さんも、堅太さんの意見が現実的で正しいことは理解しています。
しかし、いつ達成できるかわからない「世帯年収の増加」や「貯金500万円」という条件を突きつけられ、自分の思い描いていたライフプランが遠のき、悲しみから涙がこぼれました。
「お金の不安がなくなる日なんて、本当に来るのかな……」
20代が1人目の子育てをイメージできるリアルな世帯年収
共働きで世帯年収700万円という数字は、20代夫婦としては決して低いわけではありません。それでも、物価高や将来の教育費という重圧が、若い夫婦から子どもを持つという選択肢を遠ざけているのです。
望子さんと堅太さんの夫婦のように、経済的な不安から子どもを持つことを躊躇する若者は増加しています。SMBCコンシューマーファイナンスが発表した「20代の金銭感覚についての意識調査2026」のデータには、20代が直面するシビアな現実が明確な数値として表れています。
同調査で全回答者に出産・子育て(1人)しようと思える世帯年収額を尋ねたところ、20代の半数以上がイメージできるラインは「年収900万円」でした。前回の調査では「年収800万円」で半数を超えていたため、子育てに対する世帯年収のハードルがさらに上昇していることがわかります。
さらに注目すべきは、「年収がどんなに多くても、出産・子育てをしたいと思えない」と回答した20代が34.1%にのぼったことです。これも前回調査から5.1ポイント増加しています。
堅太さんが口にした「産休・育休中の収入減」や「教育費の重圧」は、決して彼個人の過剰な心配ではなく、現代の20代全体が共有しているリアルな恐怖といえるでしょう。物価高や税負担が続く社会状況において、世帯年収900万円という高い壁を越えられない限り、子どもを持つことに前向きになれない若者たちの切実な実態がデータから推測できます。
[参考資料]
SMBCコンシューマーファイナンス「20代の金銭感覚についての意識調査2026」
