一生懸命貯めたお金を使わず、亡くなる瞬間の資産額が人生のピークになる――。これは、多くの日本人が陥っている資産活用の落とし穴です。高齢者層が保有する金融資産などは約2000兆円。もしそのわずか0.25%でも消費に回れば、名目GDPを1%押し上げる力があると言われています。長生きリスクへの不安から「使えない」心理をどう乗り越えるか。野尻哲史氏の著書『100歳まで残す 資産「使い切り」実践法』(日本経済新聞出版)より、高齢者が使いきれない資産を抱え込むリスクと、使うことがもたらす日本経済への影響について解説します。
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高齢者が持つ2000兆円の資産が消費に回ると…
国民経済計算によると2022年の個人が保有する金融資産、非金融資産、土地は合計で3200兆円強に達しています。また全国消費実態調査のデータを使って60歳以上の金融資産と土地の保有比率を推計すると、それぞれ約6割になります(図表1)。すなわち60代以上が保有する資産の総額は2000兆円の規模になると推計されるのです。
(注)1980~1993年は2000年基準のSNA、1994年以降は2011年基準のSNA。60歳以上の保有率推計値は、総務省「全国家計構造調査」(2019年調査)のデータより、年代別世帯保有平均値を世帯数で掛けて総額を計算し、それぞれの資産の保有比率を算出。
そのうち5兆円程度が消費に回ることになれば、消費の乗数効果も合わせて約600兆円の名目GDPを1%程度引き上げる力を持っています。5兆円は後述する推計相続市場50兆円の1割、高齢層が保有する資産2000兆円のわずか0.25%にしかすぎません。過剰な消費というほどの水準ではないのですが、その力は極めて大きいことがわかります。
ちなみに、高齢層の消費の実力を数値でみてみます。60代以上の消費が全体の消費に占める割合は、42.2%と既にかなり大きくなっています。しかし、人口構成比は41.8%ですから、高齢層の消費はほぼ人口構成比と変わらないことになります。ただこれも60代の消費構成比が高いことが影響していますので、70歳以上とすると消費構成は人口構成比を大きく下回ります。
(注)人口数は2023年10月1日現在、消費に占める割合は内閣府「令和6年経済財政白書」より2023年データ。なお、20代の7.4%は、同白書のデータでは「20代以下」とされているが、ここでは便宜上20代の数値として使っている。四捨五入の関係で数値が整合しない部分がある。
60代後半から70代が消費に前向きになれば、日本経済にもっと貢献できるのではないでしょうか。
合同会社フィンウェル研究所
代表
1959年生まれ。一橋大学商学部卒。山一証券経済研究所、メリルリンチ証券を経て2006年フィデリティ投信入社、07年フィデリティ退職・投資教育研究所所長。
19年退職を機に合同会社フィンウェル研究所を設立し、資産形成を終えた世代向けに資産の取り崩し、地方移住などに特化した啓発活動をスタート。18年9月より金融審議会の各種ワーキング・グループ、タスクフォース委員に就任。行動経済学会、ウェルビーイング学会会員。
著書に『60代からの資産「使い切り」法』『100歳まで生きても資産を枯渇させない方法』など。
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連載退職後、楽しく安心して資産を「使い切る」実践的な方法