(※写真はイメージです/PIXTA)

賃貸マンションの相続税評価をめぐっては、税理士や不動産鑑定士の間で以前から「制度として不合理ではないか」という疑問が指摘されてきました。現行制度では、入居者がいる賃貸マンションほど評価額が引き下げられ、逆に空室で収益を生まない物件の方が高く評価されるという、直感に反する結果が生じます。本記事では、2025年12月に『富裕層の資産承継と相続税 富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】』を刊行した八ツ尾順一氏が、その仕組みを具体的に確認しながら、日本の相続税評価が抱える構造的な歪みについて考察します。

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収益性と評価額が逆転する違和感

一般的な感覚では、入居者がいる賃貸マンションは家賃収入を生み、収益性が高い資産と考えられます。

 

一方、空室のマンションは収益を生まず、資産価値は相対的に低いと見るのが自然でしょう。

 

それにもかかわらず、日本の相続税評価では、「収益性が低い物件の方が、収益性の高い物件よりも高く評価される」という、極めて直感に反する結果が制度的に生み出されています。

 

この点に、多くの専門家が「制度としておかしい」と感じる最大の理由があります。

米国との評価思想の違い

こうした日本の評価方法は、海外と比べると特異です。米国では、賃貸ビルや収益不動産の評価において、収益還元法が重視されます。

 

長期の賃貸契約が結ばれている

財務基盤の安定したテナントが入居している

将来にわたって安定した賃料収入が見込める

 

こうした要素があればあるほど、その不動産の評価額は高くなります。「収益を生む資産ほど価値が高い」という考え方は、不動産評価として合理的であり、国際的にも一般的です。

日本特有の「借家権」評価のちぐはぐさ

日本の制度をさらに複雑にしているのが、「借家権」の取り扱いです。貸主側の評価では、借家権が存在することを理由に建物や土地の評価額が引き下げられます。

 

しかし一方で、借家人側の資産として借家権が評価されることはありません。その理由としては、借家権が権利金などの名称で取引される慣行がほとんどないことが挙げられています。

 

結果として、

 

貸主側では「借家権があるから価値が下がる」

借家人側では「資産価値はゼロ」

 

という、制度的にちぐはぐな取り扱いが生じています。

配偶者居住権との対比で浮かぶ矛盾

この矛盾は、「配偶者居住権」と比較すると、より鮮明になります。

 

配偶者居住権は、被相続人が所有していた建物に、残された配偶者が無償で居住できる権利で、令和2年4月1日以降の相続から新たに認められました。

 

この配偶者居住権は、相続税の課税対象となる資産として評価されます。

 

つまり、

 

借家人の居住権(借家権)は評価されない

配偶者の居住権は評価される

 

という扱いの差が存在しているのです。

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