(※写真はイメージです/PIXTA)

相続発生後に故人の資産状況を調べた結果、「お金の流れがおかしい」となれば、相続人間で疑心暗鬼となり、修復不能なトラブルになりかねません。ここでは「家庭内の使い込み問題」について、現場の実例と法的観点から見ていきましょう。司法書士・佐伯知哉氏がわかりやすく解説します。

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相続で最も揉めるのは「遺産の金額」ではなく…

高齢となった親が弱り始めると、銀行口座の管理や通院の支払い、介護費用の立て替えなど、家族が日常的にお金を動かす場面が増えていきます。しかし、いざ相続が始まると、この「日常における、必要で当たり前の行動」が、一転して疑いの対象になることがあります。

 

相続実務の最前線で強く感じるのは、最も揉めるのは「遺産の金額」ではなく、「亡くなる前のお金の流れ」だという点です。

 

「なぜ兄だけがキャッシュカードを持っていたのか?」

「なぜ母の口座から、亡くなる直前に多額の出金があったのか?」

「名義預金なんて聞いていない!」

 

悪意がなくても、説明ができなければ「使い込み」を疑われてしまう…。そんなトラブルはどの家庭でも起こり得ることなのです。

相続人たちが注目するのは「亡くなる前のお金の動き」

相続人全員が故人の通帳を確認したとき、最も注目されるのが「亡くなる直前の数ヵ月〜数年」のATM引き出し履歴です。

 

親が高齢になると、

 

●自力でATMに行けない

●通帳やカードの管理が難しくなる

●認知症の初期症状で判断力が弱くなる

 

といった事情から、子どもや配偶者が代わりに預金を動かすことが増えます。しかし、相続開始後、家族の目に入るのは記録された数字だけです。

 

「この50万円の引き出しは誰が?」

「何に使ったの?」

「説明できないなら使い込みでは?」

 

悪意がなくても、説明できないこと自体が疑念の対象になります。親を思って世話してきた人ほど、疑われた瞬間に深く傷つき、家族関係に亀裂が入ることも珍しくありません。よくあるのが、下記の3パターンです。

 

①キャッシュカードを預かっていた子が疑われる

 

介護や病院付き添いが一人の子に偏ると、その人が生活費や医療費を引き出す機会が増えます。しかし、通帳の動きが説明できなければ“横領したのでは”という疑いが生まれる。実際には親のために使っただけでも、記録がなければ反論が難しくなります。

 

②同居していた配偶者(母)が疑われる

 

「父の金を母が勝手に使っていたのでは」という典型的誤解です。医療費・生活費・介護費などの正当な支出であっても、記録がなければ疑念が残ります。

 

③「名義預金問題」は理解されにくい

 

名義預金とは、名義は子ども・孫でも、実質的に親の財産として扱われる預金のことです。

 

●親が勝手に子どもの名義で積み立てていた

●祖父母が孫名義で教育資金を入れていた

 

これらは相続税の対象になり、相続人間でも揉める火種になります。

法律上「使い込み」が疑われるリスクがあるケースと、その対応策

以下のような状況では、法的にも使い込み(不当利得・不法行為)が疑われやすくなります。

 

●親の判断能力が低い時期に大口の出金がある

●領収書等の証拠がなく使途説明ができない

●親のお金を自分や配偶者の生活費に流用していた

●お金の動きを家族に一切共有していなかった

 

実務で感じるのは、「何をやったか」よりも「説明できるか」が極めて重要だということです。

家庭内の使い込みトラブルを避けるための“実務的対策”

トラブルの多くは、生前に仕組みを整えることで大幅に予防できます。

 

①日常の支払い・引き出しの“記録”を必ず残す

 

これは最も効果的な対策です。

 

●領収書

●支払いメモ

●医療費や介護費の明細

●立替え履歴

 

こうした記録があるだけで、相続発生後に説明が容易になり、疑いはほぼ消えます。

 

②キャッシュカード・通帳の管理は「家族の透明性」を確保する

 

1人だけが通帳・カードを握る構造が、最も揉めやすいといえます。

 

●引き出し日は共有

●金額は共有

●使途もメモだけで十分

 

固定費・介護費などは家族LINEで共有するだけでトラブル発生率が大幅に低下します。

 

③委任状・家族信託で「誰がどの範囲を管理するか」を事前に設定

 

家族信託や生前の任意代理契約は、「将来、財産をどう管理するか」のルールを明文化できる制度です。

 

●誰が管理者になるのか

●どの費用に使ってよいか

●報告義務をどうするか

 

を事前に決めておくことで、不正疑惑がほぼ生まれません。

 

特に家族信託は、認知症期の財産凍結を避けながら透明性の高い管理ができるため、介護期のトラブルを劇的に減らす仕組みです。

 

④成年後見・任意後見も最終的な防御策として検討

 

親が意思判断できない段階なら、成年後見制度を使うほかありません。ただし、

 

●家庭裁判所の監督が入る

●柔軟性が低い

●専門職後見人の報酬が必要

 

という特徴があり、最後の手段として位置づけられます。家庭裁判所への報告など監督機能が働くため、財産の不正使用を防ぐことができます。

家族だけで解決しようとしない──疑念が深まったら専門家へ

もし、相続人の間で「お金の流れについて説明がない」「通帳の履歴に不自然な引き出しがある」「名義預金といわれても納得できない」などがある場合、家族内で話し合うほど感情がこじれ、収拾不能になることがあります。

 

その場合は専門家が入ることで、金銭の流れを客観的に整理したうえで、法的に適正かどうかを評価し、必要に応じて調停や返還請求に対応するといった冷静な問題解決が可能になります。

 

家庭内の「使い込み問題」は、どの家庭にも起こり得る普遍的な相続リスクです。

 

しかし、多くのトラブルは次の対策で予防できます。

 

●記録を残す

●情報を家族で共有する

●委任状や家族信託でルール化する

●状況に応じて後見制度を活用する

●必要に応じて専門家が関わる仕組みを整える

 

もっとも大切なのは「透明性」と「仕組み化」です。

 

相続は、亡くなった瞬間からいきなり始まるものではありません。家庭内の金銭管理が一人に偏り始めた段階でこそ、最も積極的に備えるべき時期だといえるでしょう。

 

 

佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長

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