(※写真はイメージです/PIXTA)

年末年始は親族が一堂に会する貴重ない機会です。そこでは、普段なかなか話せない「相続の話」をする絶好の機会でもあります。情報共有しないまま親が亡くなると、なにも知らされなかった子があとから大変な思いをすることになりかねません。司法書士の加陽麻里布氏が解説します。

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年末年始に確認したい「争族の火種」とは?

年末年始、久しぶりに実家へ帰省し、家族で大掃除をしていたとき、古い引き出しや金庫の奥から、見慣れない「1枚の書類」が――。その内容を見て家族が騒然。

 

相続の現場に長く携わってきた司法書士として、このような場面から深刻な「争族(そうぞく)」へ発展するケースを数多く見てきました。

 

その書類は遺言書はもちろん、不動産の権利証、預金通帳、借用書、賃貸借契約書等である場合もあります。

 

問題なのは、その存在を「家族のだれも把握していなかった」ことなのです。

「聞いていない」「知らなかった」が不信感を生む

相続トラブルの多くは、財産の額そのものよりも、

 

「そんな話、なにも聞いていない…」

「どうして自分だけ知らされていなかったのか?」

 

といった漠然とした不安、そして疑いの感情から始まります。

 

典型的なのが、遺言書の発見です。たとえば、3人きょうだいのうち1人に大半の財産を相続させる内容の遺言書が見つかった場合、ほかの相続人が感じるのは、驚きや怒り以前に、「理由が分からない」という不安です。

 

遺言自体が法的に有効だとしても、生前に何の説明もなく、突然その内容を突きつけられれば、「不公平だ」「だれかが親を誘導したのではないか?」といった疑念が生まれるのは自然なことです。

自筆の遺言書が、かえって「争いを招く」ことも

遺言書は、相続対策として非常に有効な手段です。しかし、作り方を誤ると、かえって争いの火種になる点には注意が必要です。とくに多いのが、ご本人が独力で作成した「自筆証書遺言」です。

 

自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、法律上の形式を欠くと無効になります。たとえば、

 

●日付が書かれていない、または特定できない

●署名や押印がない

●本文をパソコンで作成している

●財産の特定が不明確

 

このような場合、相続人間で「有効か、無効か」が争われ、家庭裁判所での手続に発展することも珍しくありません。

 

また、内容が一方的で、遺留分(法律で保障された最低限の取り分)を大きく侵害している場合には、たとえ遺言が有効でも、相続開始後に遺留分侵害額請求がなされ、結果的に紛争が長期化することもあります。

書類そのものより「なぜそうしたか」が重要

司法書士として強調したいのは、「何を残すか」以上に、「なぜそうしたのか」を伝えることの重要性です。

 

遺言書には、法的効力を持つ本文とは別に、「附言」と呼ばれる自由記載部分があります。

 

附言には法的拘束力はありませんが、遺言者の気持ちや考えを書き残すことができます。

 

「介護をしてくれたことへの感謝」

「生前に援助してきた事情」

「それぞれに期待する役割」

 

こうした言葉があるだけで、相続人の受け止め方は大きく変わります。

 

逆に、理由の説明が一切ない遺言書ほど、感情的な対立を生みやすいものはありません。

判断能力が問われるリスクも見逃せない

遺言書の形式や内容に問題がなくても、作成当時の判断能力が争われるケースもあります。

 

高齢や病気の影響により、遺言作成時に意思能力がなかったと判断されると、遺言書は無効とされる可能性があります。

 

これは自筆証書遺言に限らず、公正証書遺言であっても例外ではありません。

 

そのため、遺言作成時の状況を客観的に説明できる資料や記録を残しておくことは、実務上とても重要です。

 

専門家が関与することで、こうしたリスクを事前に整理することが可能になります。

年末年始は「確認」と「共有」に適したタイミング

年末年始は、家族が集まり、比較的落ち着いて話ができる貴重な時期です。

すべての財産内容を細かく説明する必要はありませんが、

 

●遺言書を作っているかどうか

●不動産が持ち家か借家か

●特定の人に多く残す意向があるか

 

こうした方向性だけでも共有しておくことで、将来のトラブルは大きく減らせます。

 

「その話は、まだ早い」

 

そう先送りにした結果、残された家族が、実家で見つかった「1枚の書類」を前に途方に暮れる。

 

相続の現場では、決して珍しい話ではありません。

争族を防ぐ最大の対策は、生前の準備と対話

相続は、亡くなった後の問題ではなく、生前から始まっている問題です。

 

遺言書や登記といった「書類」を整えることはもちろん重要ですが、それ以上に大切なのは、家族への説明と対話です。

 

実家で見つかる「1枚の書類」が、家族を分断する火種になるのか、それとも安心につながる備えになるのか。

 

その分かれ道は、年末年始の何気ない会話の中にあるのかもしれません。

年末年始に家族で確認したい相続チェックリスト

相続のトラブルは、専門知識がなかったから起きるわけではありません。多くの場合、「誰も全体を把握していなかった」「話題にする機会がなかった」ことが原因です。

 

年末年始は、家族が自然に集まり、比較的落ち着いて話ができる数少ないタイミングです。

 

以下は、すべてを決めるためのチェックリストではなく、「確認するだけ」でよい項目です。

 

【実家の相続】
「両親・きょうだいに聞くこと」確認用チェックリスト

 

①遺言書の有無は把握できているか

 

□ 遺言書を作成しているかどうか

□ 作成している場合、その種類(自筆か、公正証書か)

□ 保管場所(自宅・金融機関・法務局など)

 

※ 内容まで聞く必要はありません。「ある/ない」「どこにあるか」だけでも共有されていれば、相続開始後の混乱は大きく防げます。

 

②不動産は「持ち家」か「借家」か

 

□ 実家や土地は親名義か

□ そもそも所有か賃貸か

□ 共有名義になっていないか

 

※ 司法書士の実務では「当然、親の持ち家だと思っていたら借家だった」「名義が祖父のままだった」というケースは珍しくありません。この誤解は相続後の手続だけでなく、家族の期待そのものを大きく裏切る原因になります。

 

③預貯金や負債について大きなズレはないか

 

□ 想定外に多額、または少額の預貯金がないか

□ 誰かへの貸付金や借入金が存在しないか

□ 連帯保証人になっていないか

 

※ とくに借用書・保証関係の書類は、相続開始後に初めて発覚すると、相続人同士の責任問題に直結します。

 

④特定の人に多く残す意向があるか

 

□ 介護や事業承継など、偏った分け方を考えているか

□ その理由を、本人の言葉で伝えているか

 

※ 法的には可能な内容でも、理由が共有されていなければ、「不公平」「操作されたのでは」という感情的対立に発展しやすくなります。

 

⑤専門家に一度は相談しているか

 

□ 遺言や名義の状況を専門家が確認しているか

□ 判断能力や形式面でのリスクを指摘されているか

 

※ 「自分で書いたから大丈夫」という思い込みが、無効リスクや争族の引き金になるケースは後を絶ちません。

 

チェックリストの使い方

このチェックリストは、すべてを決めるためのものでも、いますぐ結論を出すためのものでもありません。

 

●存在を把握する

●認識のズレがないか確認する

●話題に出してみる

 

これだけでも、相続トラブルの多くは未然に防ぐことができます。

司法書士からのひとこと

相続対策で最も多い後悔は、「もっと元気なうちに、少しだけ話しておけばよかった」というものです。

 

実家で見つかる「1枚の書類」が、家族を疑わせる材料になるのか、それとも安心につながる備えになるのか。その分かれ道は、年末年始の何気ない会話の中にあります。

 

書類を整えること以上に「共有する」ことが、最大の争族対策なのです。

 

 

加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所 代表司法書士

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