(※写真はイメージです/PIXTA)

親の介護を一手に引き受けたのに、遺産分割はきょうだい均等!? そんな結果に怒りやくやしさを募らせている人は少なくありません。司法書士の加陽麻里布氏が、法律の現場の実情と、介護問題を争族トラブルに発展させないためのポイントを解説します。

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司法書士が何度も見聞きした「きょうだい決裂」の現場

「親の介護を一手に引き受けてきたのに、相続では〈ほかのきょうだいと同じ扱い〉でした…」

 

この言葉は、相続相談の現場で何度も聞いてきました。一見すると理不尽に思えるこの状況ですが、実は法律の構造上、極めて「起こりやすい」結末だといえます。

 

そして、その実情についてだれも知らない・説明されないまま時間が経過すると、「長年にわたる介護」をきっかけに、深刻な相続トラブルへと発展していきます。

「介護負担の重さ」と「相続分の積み増し」は、法律上別問題

まず押さえておくべき重要な前提があります。「親の介護をした」という事実だけで、相続分が増える制度は存在しません。

 

民法上、子は親を扶養する義務を負っています。この扶養義務には、生活費や医療費といった経済的援助だけでなく、日常生活の世話や看護といった行為も含まれると解されています。そのため、相続の場面では「親の介護をしていた」こと自体は、原則として扶養義務の履行の範囲内として整理されることになります。

 

多くの方が誤解しがちですが、介護を担ってきたことと、相続分が増えるかどうかは、法律上は別の問題です。この点を理解しないまま相続が始まると、

 

「法律上は平等に分けるのが原則」

 

という制度を前に、

 

「これだけ尽くしてきたのに、なぜ同じ取り分なのか!?」

 

という強い感情を募らせることになります。

 

介護をした側には当然の不満であっても、法律は制度としての要件で相続分を判断し、そこに感情はありません。

 

その落差が、介護をきっかけとした相続トラブルを生む原因になります。

なぜ「寄与分」という制度は期待通りに機能しないのか?

介護をした人がよく口にするのが「寄与分」の話です。

 

確かに、民法には、被相続人の財産の維持・増加に特別に貢献した相続人がいる場合、相続分を調整する制度が用意されています。しかし、司法書士の実務感覚としては、通常の介護を理由に寄与分が認められるハードルは「極めて高い」と言わざるを得ません。

 

理由は明確です。

 

●通常の扶養義務を「超えている」こと

●その結果、財産が「維持または増加した」といえること

 

この2点を、あとから証明しなければならないからです。

 

日々の介護、通院の付き添い、生活の世話、それらは尊い行為である一方、「財産がどれだけ守られたのか」を数字で示すことは困難です。

 

結果として、長年の介護が「法定相続分を修正するほどの特別貢献」と評価されないまま、遺産分割協議が進んでしまいます。

介護後に起きる「第二の断絶」

介護が終わり、相続が始まった段階で、それまで表に出なかった感情が噴き出します。

特に深刻なのが、次のような場面です。

 

●介護のために親と同居していた

●実家に住み続ける前提で生活を組み立てていた

●遺産分割の結果、実家売却が必要になる

 

法律上は、実家も「分けるべき遺産の一部」にすぎません。しかし、介護を担ってきた側にとっては、生活の基盤そのものです。

 

「介護で仕事を調整し、住まいも親に合わせてきたのに、最後は“平等だから”と言われて家を出ることになった」

 

この瞬間、きょうだい関係は修復困難な段階に入ることが多いのです。

問題の本質は、介護ではなく「制度設計の不在」

多くの事案を見てきて感じるのは、問題の本質は介護そのものではない、という点です。真の原因は、介護と相続を“別の問題”として放置してきたことにあります。

 

●介護を担う人に、どのような配慮をするのか

●住まいをどう位置づけるのか

●財産管理を誰が、どの範囲で行うのか

 

これらを生前に制度として整理していなければ、相続の場面で「感情vs法律」の対立が生じるのは必然です。

司法書士が伝えたい「現実的な対策」

介護を理由に、相続で自動的に報われる制度は存在しません。だからこそ、

 

●遺言による明確な意思表示

●住居・不動産の位置づけ整理

●財産管理の透明化

●家族への事前説明

 

これらを生前にしっかりと整えておくことです。

 

「家族だから分かってくれる」

「いずれ話せばいい」

 

この先送りが、最も深いきょうだい対立を生む原因になります。

 

【介護×相続】
「将来の「争族」を防ぐ」チェックリスト(年末年始版)

 

①介護の「役割」と「決め方」を可視化できているか?

 

□ 介護方針(在宅/施設/訪問介護の利用)を、きょうだいで共有している

□ 主担当者(キーパーソン)を決めている(「長男だから」の自動決定にしていない)

□ 決定プロセスを残している(LINE・メールでも可。後で「勝手に決めた」と言われない)

 

②親の財産管理に「ルール」があるか?

 

□ 親名義の口座から引き出す人・引き出し方・上限のルールがある

□ 介護費用用の口座(または財布)を分けている

□ 支出の根拠(領収書・請求書・介護サービス明細)を保管している

□ 通帳・カードの保管場所とアクセス権限が共有されている

 

※ここが曖昧だと、相続開始後に「使い込み疑惑」が最も起きやすいです。

 

③“目に見えない負担”を「証拠」に変えているか?(寄与分の土台)

 

□ 介護日誌(簡易でOK:日付/内容/所要時間)を残している

□ 介護サービス利用票、ケアプラン、診断書・要介護度の資料が揃っている

□ 交通費・日用品等の立替があるなら、月ごとにざっくり集計している

 

※寄与分は「言ったもの勝ち」にならず、証明が生命線になります。

 

④実家(不動産)の「名義」と「将来の扱い」を確認しているか?

 

□ 実家の名義が誰か確認した(親/祖父母のまま/共有など)

□ 持ち家か借家か確認した(賃貸借契約書の有無)

□ 同居介護者の居住継続(住み続けたい・出る可能性)について、方向性だけでも話した

 

※“住む人”と“売りたい人”の対立は、介護後に爆発しがちです。

 

⑤遺言・意思表示の準備があるか?

 

□ 遺言書の有無だけは把握している(内容まで聞かなくてOK)

□ 介護者に手厚くする意向があるなら、理由を「附言」で残す前提がある

□ 遺留分を強く侵害しそうなら、対策(現金留保・保険活用等)を検討する

 

※遺言があるほど揉めるケースは「理由が書かれていない」場合が多いです。

 

⑥“揉めたときの手続ルート”を知っているか?(現実の安全装置)

 

□ きょうだいで話がつかなければ、遺産分割調停(家庭裁判所)になる可能性を理解している

□ 遺言が自筆の場合、検認等の手続が絡むことを把握している

□ 「親の口座が凍結する」「不動産の名義変更が必要」といった実務を認識している

 

※「感情で片付くはず」が、手続の壁で一気に対立化します。

 

 

チェックリストの使い方(年末年始の会話に落とすコツ)

●いきなり相続の分け方を決めない

●「ある/ない」「誰が管理」「書類はどこ」だけを確認する

●介護担当者を責める形ではなく、透明性の仕組み作りとして提案する

司法書士からのひとこと

相続は、亡くなった後の話ではありません。介護が始まった時点で、すでに相続は始まっています。年末年始は、家族が揃い、立ち止まって話せる数少ない時間です。

 

介護と相続を切り離さず、「どう報われるべきか」ではなく「どう設計すべきか」を話しましょう。それができるかどうかで、将来の家族関係は大きく変わります。

 

 

加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所 代表司法書士

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