「贅沢なんてとても…」口癖だった母
東京都在住の会社員・高山大輔さん(50歳・仮名)は、離れて暮らす77歳の母・弘子さん(仮名)の生活を「質素でつつましい」と思っていました。
父を数年前に亡くし、年金は国民年金のみで月7万円ほど。スーパーの特売をうまく活用し、服も「まだ着られるから」と何年も同じものを大切に着ている――そう聞かされていたからです。
「もう、年金だけじゃギリギリなの」
「贅沢なんてとてもできないわよ」
電話や帰省のたびに、そんな言葉を何気なく口にする母に対して、大輔さんも「そろそろ何か手助けをすべきだろうか」と感じ始めていました。
ある日、実家を訪れた際、母のスマホから何度もキャッシュレス決済の通知音が聞こえてきました。「キャッシュレスなんてよくわからない」と言っていた母が、使いこなしている様子に驚きつつも、何気なく画面を覗くと、家計簿アプリの画面が表示されていたのです。
「お母さん、それ、家計簿つけてるの?」
「……ちょっと自分で記録してるだけよ」
その場では深追いしませんでしたが、後日、母の了承を得て通帳とアプリを一緒に確認した大輔さんは、思いもよらない“真実”を知ることになります。
通帳には毎月20万円以上の定期的な入金、アプリには「家賃」「副収入」といった項目が並び、月30万円近い収入があることが明らかになったのです。
驚いた大輔さんが尋ねると、母はようやく真実を明かしました。
「あなたのお父さんが昔買ってたワンルーム、あれ、今も貸してるの。あと、昔からの趣味で作った小物をネットで売ってるのよ。ちょっとしたお小遣いだけどね」
弘子さんは、亡き夫から相続した賃貸マンションの家賃収入(月20万円ほど)と、趣味で続けてきた手芸品のネット販売(月数万円)で、年金以外にも安定した収入を得ていたのです。
「何も言わなかったのは、わざわざ言うほどのことじゃないと思ってたの。年金だけって言っておいたほうが、変に詮索されないから、気が楽だったのよ」
そう語る母は、バツが悪そうに笑いながらも、どこかホッとしたような顔をしていました。長年ひとりで抱えていたことをようやく話せた安堵が、にじんでいたのかもしれません。
「大した額じゃないし、どうせ“節約してるんだろうな”って思われてるなら、それでもいいかなって。……あなたに心配されるのも、ちょっと面倒だったしね」
