(※写真はイメージです/PIXTA)

「相続はできるだけ早く、円満に終わらせたい」と考える人は多いはず。しかし現実には、協議が長引くケースが少なくありません。背景には、法律の原則と家庭ごとの事情の対立があります。今回は、遺産分割協議が長期化する要因と解決の糸口について、いくつかの事例をもとに北畑総合法律事務所代表弁護士・北畑素延氏が解説します。

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複雑な人間関係、多数の関係者…遺産分割は「泥沼化」しがち

遺産分割協議は相続人全員が円満な状態で、スムーズに進むのが理想です。しかし、長年にわたる複雑な人間関係が前提となっていること、関係者が多いことから、話し合いが長期化することも珍しくありません。

 

親族間での協議から遺産分割調停に進み、調停でも話し合いがまとまらず、遺産分割審判に発展すると、1年以上もの期間が経過することも多くあります。ここで、遺産や相続人の範囲等の前提問題と呼ばれる事項が争いになると、別途、民事訴訟による解決まで必要になってしまいます。

 

その場合は、遺産分割調停から民事訴訟、さらなる遺産分割調停という流れになるので、4~5年の時間がかかることもあります。

「配偶者の関与」が火種に…遺産分割のトラブル事例、3つ

遺産分割は利害関係を有する多数の人物が参加するため、協議が紛糾しがちです。相続人である子が複数いる場合、子の間での協議がまとまらないケースもありますし、相続人間では話がまとまっていたのに、相続人以外の人物が関与することで、協議がまとまらないケースもあります。

 

【事例1】親を長年介護してきた長女への遺産配分に、次女の夫が反発!

次女夫「どうして義姉さんのほうが遺産が多いんだ? おかしいだろう!?」

次女 「そ、そうね…」

長女 「うちが介護したから多くもらうことで同意してたのに、何をいまさら…!」
 

→ 事情を知らない次女の配偶者が介入し、次女が意見を翻したことで紛糾

 

親が1人、相続人として長女と次女の2人がいるケースを考えてみます。両者にはそれぞれ配偶者がいます。

 

長女は親と同居して長年介護をしていたことから、生前、親と姉妹間で「長女が多くの遺産を取得する」ことを話し合っていました。

 

この場合、親や相続人である長女と次女はこれまでの経緯がよくわかっているため、過去の事情を遺産分割協議に反映させることに納得感を持ちやすいでしょう。

 

ただ、これは民法の法定相続の原則を修正するものです。事情をよく知らない次女の配偶者からすれば、その修正に合理的な理由は見当たりません。とくに、介護に当たる行為が負担の重いものでなく、寄与分(特定の相続人が、被相続人の財産維持あるいは増加に特別な寄与をした場合、その貢献度を考慮して法定相続分以上の遺産を取得することができる制度、民法第904条の2)が認められないものであればなおさらです。

 

ここで次女の配偶者が「法定相続の原則を修正すべきではなく、法定相続分どおりの遺産をもらうべきだ」と意見を述べて、次女が従来の意見を変えると、相続人間で言った・言わないの争いになり、紛争が激化してしまうことになります。

 

なお、このように紛争が激化する場合、被相続人と同居している相続人は、被相続人の生活や財産の状況がよく分かっているのに対して、同居していない相続人は事情がよく分からず、疑心暗鬼に陥りやすい背景があります。

 

上記のケースは、親族間の事情を踏まえて柔軟に遺産分割を考えるのか、あるいは、そのような事情は考慮せずに法律を根拠に遺産分割を行うのか、という争いだと言えるでしょう。

 

【事例2】兄弟間の話し合いを知らない長男の嫁が「寄与分」を主張!

長男嫁「同居で介護したのにどうして寄与分をもらわないの? おかしくない!?」

長男 「そ、そうだな…」

次男 「ウソだろ、同居で生活費が助かっていたから〈寄与分なし〉で同意してたのに、何をいまさら…!」

 

→ 事情を知らない長男の配偶者が寄与分を主張し、長男が意見を翻して同意したことで紛糾

 

先ほどと類似のパターンで、相続人が長男と次男のケースにおいて、長男が長年親の介護をしていたものの、同居させてもらっていることと、たまに子どもの小遣いをもらっていたことから、寄与分を主張せずに遺産分割協議を進める方向で次男と話をしていたとします。

 

しかし、実際に長男が寄与分を認められる程度の負担をしていた場合、本来は寄与分を主張することで長男の取り分が増えます。そのため、長男の配偶者が「寄与分を主張すべき」と意見を述べ、長男がそれに従って寄与分を主張し始めると、遺産分割協議は紛糾することになります。

 

このような場合、寄与分を認めることは法に則った解決であり、関係者の公平にも合致しますが、「法的に反映できない親子や兄弟間の個別事情」を考慮しないと、協議を紛糾させかねないリスクを秘めています。

 

【事例3】長男の嫁が「特別寄与料」を主張するケース

長男 「妻が介護に貢献してくれたから、遺産を多くもらうことで応えたい」

次男 「了解。遺産は兄さんに多めで分配しよう」

長男嫁「私は断固として〈特別寄与料〉を請求する!!」

長男・次男「そこまでしなくても…!」

 

→ 長男の妻、長男・次男間の話し合いの内容を知らず権利主張したことで紛糾

 

先述の事例と同様、長男が親と同居していたケースで、「実際に介護を担っていたのは長男の配偶者だった」というケースもよくあります。

 

この場合、長男は「長年頑張ってくれた配偶者の貢献に遺産分割で応えたい」と考えたり、「次男とできるだけ争わずに、円満に協議を終えたい」と考えたりするかもしれません。長男と次男は過去の事情を理解しているため、円滑に話し合いが進みそうです。

 

ところが、事情を知らない第三者が関わると、そうはいかない場合があります。ここで、長男の配偶者が次男に対して「特別寄与料」(令和元年7月施行)を請求すれば、長男と次男の間で進めていた遺産分割協議は紛糾する可能性が高くなります。

 

とくに、その請求が調停などの裁判手続によって行われた場合、遺産分割の話し合いがいわゆる〈裁判沙汰〉へと発展してしまうことになってしまいます。

背後事情の考慮が「争族」や「紛争の長期化」を防ぐことも

遺産分割を巡る争いは多種多様です。しかしながら、法律の原則を理解したうえで「あくまで法律どおりの結論」を貫くのか、それとも「個別事情を考慮したうえで、法律の原則を修正して、紛争を早く終わらせるのか」ということを意識することが重要です。

 

遺産分割協議を行う際には、関係者の背後にある個別事情や心情を理解するように努めることで、紛争の長期化を防ぐことができるかもしれません。

 

 

北畑 素延
北畑総合法律事務所 代表弁護士

 

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