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「立て替えた葬儀費用200万円、あとでみんなで分割…っと」
ある家族のケースです。父親が亡くなり、長男が喪主となって葬儀を執り行いました。通夜、告別式、火葬、会食まで含めた葬儀費用はおよそ200万円。長男は「あとで相続人全員で精算すればいいだろう」と考え、いったん全額を立て替えました。
ところが、遺産分割の話し合いが始まったある晩、長男が「立て替えた葬式代の件だけど…」と口火を切った途端、きょうだいの顔色が一変します。
「はぁ? それって喪主の負担でしょ?」
「葬儀を仕切ったの兄さんじゃない!」
次男と長女から口々にいわれ、長男は立て替えた葬儀費用の分担を拒否されたのです。金額の問題以上に「当然だと思っていたこと」を否定されたショックは大きく、きょうだい関係は一気に悪化しました。
相続の現場では、このような「お葬式のお金をきっかけに相続がこじれる」ケースにしばしば遭遇します。
ここでは、葬儀費用の負担について、相続の実務の視点から整理しましょう。
【税金の視点】葬儀費用は「相続財産から控除できる」
まず、相続税の計算における考え方です。
相続税は、亡くなった方の遺産総額から、一定の債務や費用を差し引いたうえで課税されます。その「差し引ける費用」の代表例が、葬儀費用です。
具体的には、次のようなものが該当します。
○ 通夜・告別式にかかった費用
○ 参列者への飲食代
○ 火葬・埋葬・納骨にかかる費用
○ お寺へのお布施
○ 葬儀を手伝ってくれた方への心付け
これらは、相続財産から控除することが可能です。
一方で、次のような支出は葬儀費用には含まれません。
× 香典返し
× 位牌・仏壇の購入費用
× 墓地・墓石の購入費
× 初七日・四十九日など、葬儀後の法要費用
税務上は「葬儀費用=相続財産から差し引ける費用」という整理になります。
【法律の視点】葬儀費用は「相続債務ではない」
次に、法律の考え方です。
多くの方が、「相続に関係するお金なのだから、相続人全員で負担するのが当然では?」と感じますが、法律上の扱いは少し異なります。
なぜ相続債務とされないのか。葬儀費用は、
●被相続人が亡くなった後に
●相続人(多くは喪主)が
●葬儀会社と契約し
●新たに発生した費用
という性質を持っています。
そのため、相続開始時点ですでに存在していた債務ではないとして、厳密には相続債務に当たらない、という考え方が有力です。ここが、葬儀費用トラブルの出発点になります。
葬儀費用は誰が負担するのか──4つの考え方
では結局、葬儀費用は誰が負担するのでしょうか。この点については、実務上、次の4つの考え方が整理されています。
①共同相続人が法定相続分に応じて負担する
②葬儀を主宰した喪主が負担する
③相続財産のなかから支出する
④地域の慣習や条理に従う
このうち、裁判例で最も多く採用されているのが②の「喪主負担説」です。つまり、葬儀費用で争いになり、裁判になった場合、喪主が負担すべきと判断される可能性が高いというのが、現実的な結論になります。
冒頭の事例で、長男の請求が通らなかったのも、この考え方が背景にあります。
もう一つの典型的なトラブル…遺産からの無断支出
別のケースでは、喪主が遺産預金から葬儀費用を先に支払いました。
ところが後日、ほかの相続人から「勝手に預金を引き出したのは使い込みではないか」と疑われ、深刻な対立に発展しました。
本人としては「葬儀費用なのだから当然」と考えていても、事前の合意がないまま遺産に手を付けること自体が、紛争の火種になります。
トラブルを防ぐための「生前対策」2つ
こうした問題を避けるために重要なのが、生前の備えです。
①生前に葬儀契約を結んでおく
被相続人が生前に葬儀会社と契約し、費用も支払っておく方法です。この場合、死亡後に新たな債務が発生しないため、「誰が負担するのか」という問題自体が起こりません。
②遺言書で葬儀費用の扱いを決めておく
遺言書のなかで、
●葬儀費用は遺産から支払う
●残った財産の分け方
を明確にしておけば、その内容に従って処理されます。これにより、「立て替えた」「立て替えていない」といった感情的な対立を未然に防ぐことができます。
葬儀費用も「相続の前」に決めておく
葬儀は、精神的にも時間的にも最も余裕のない時期に行われます。そのなかで金銭的な負担まで曖昧なままだと、相続人同士の関係は簡単に壊れてしまいます。
●税金上は控除できる
●法律上は喪主負担とされやすい
●だからこそ、生前の対策が決定的に重要
「よい相続」は、亡くなったあとではなく、亡くなる前の準備によって実現します。大切な家族が争わずにすむよう、葬儀費用の扱いも含め、一度立ち止まって考えてみてください。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
