(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の相続税は、戦前の「遺産課税体系」から戦後の「遺産取得課税体系」へと大きく転換してきました。昭和33(1958)年に導入された現行の「法定相続分遺産取得課税体系」は、遺産総額と相続人の数をもとに相続税の総額が決まります。しかし、この仕組みには課税の公平性や申告漏れの影響など、表面からは見えにくい課題も存在しています。本記事では、12月に『富裕層の資産承継と相続税』を刊行したばかりの八ツ尾順一氏が制度の変遷をたどりながら、こうした問題点を解説していきます。

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現行の課税方式の「3つ」の問題点

1.各相続人の“実際の取得額”に応じた課税にならない

もっとも、この課税体系にはいくつかの問題点も指摘されています。そのひとつが、相続人ごとの取得額に応じた課税にならないという点です。

 

相続税はまず総額を算出し、それを取得割合に応じて按分します。したがって、相続人の税負担率はすべて同じになります。

 

〈例〉
Aさん:4億円を取得

Bさん:1億円を取得

相続税総額:2億円

 

上記の場合、

 

Aさん:1.6億円(負担率40%)

Bさん:0.4億円(負担率40%)

 

となり、同じ40%の負担率となると、取得額が大きく異なります。この点を不公平とする意見があります。

 

2.他の相続人の申告漏れが、自分の税額にも波及する

課税計算は、「①各人の課税価格→②合計して総額を計算→③按分」という流れで行われます。そのため、誰かの申告漏れが見つかると、他の相続人にも追徴課税が及ぶという問題があります。

 

〈例〉

・Aさんの課税価格:4億円→調査で3億円の漏れが発覚し7億円へ

・Bさん:当初の1億円のまま

 

この場合、相続税の総額が増えるため、Bさんの税額も本来の0.4億円から0.5億円へと増加します。したがって、Bさんの取得財産は増えていないにもかかわらず、税負担だけが増えることになるのです。

 

3.特例の効果が他の相続人にも及んでしまう

同様に、特定の相続人が小規模宅地等の特例(80%減額など)を利用すると、相続税の総額が下がるため、他の相続人も恩恵を受けてしまうという構造的な問題があります。

 

本来、特例は適用した相続人自身の負担を軽減するための仕組みです。しかし、法定相続分課税方式ではその効果が相続人全体に波及してしまいます。

 

現在の方式は、純粋な「遺産取得課税」ではない

このように、現行の「法定相続分遺産取得課税体系」は、相続人それぞれの実際の取得財産だけを基準に課税する“純粋な遺産取得課税”とは構造が異なります。個々の相続人とは無関係の要素が税額に影響してしまうという、仕組み上の特徴を持っているのです。

 

 

八ツ尾 順一

大阪学院大学 教授

 

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