非上場のファミリービジネスは、一族の結束力を強みに、長期的な視点での経営や迅速な意思決定が可能です。しかし、世代が進むにつれて一族の結束力は弱まり、経営方針や利害の対立、無形資産の継承といった課題が顕在化します。本稿では、ファミリービジネス特有のメリット・リスク、利害調整の仕組み、無形資産の重要性、ライフサイクルやガバナンスの在り方について整理します。公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。
創業家が持つ「無形資産」
ファミリービジネスにおいては、有形資産だけでなく、無形資産の継承も重要です。無形資産とは、一族が長年の事業活動や社会貢献を通じて築き上げた、目に見えない価値のことです。
具体的には、一族メンバーが持つ知識や経験、人脈などの個人能力、家族の団結力によって生まれる相乗効果、そして社会から得た信頼や評判といった社会的資本が挙げられます。これらの資産は、外部には容易に模倣できず、持続的な競争力の源泉となります。
ファミリービジネスのライフサイクル
ファミリービジネスの所有一族には、典型的なライフサイクルがあります。
最初の段階では、オーナー経営者として一族が日常の経営に直接関与し、理念を軸に意思決定を行います。
次の段階では、非一族のプロ経営者が経営を担当し、専門知識や経験を活かして事業の成長を目指します。最終段階では、一族は経営から離れ、資産の維持・増加に焦点を移し、理念に基づく資産運用を行うようになります。
【フェーズ1】オーナー経営
オーナーが経営を行います。一族がビジネスの日常運営に直接関わり、経営の意思決定を行います。この時期は、一族の価値観や理念がビジネス運営の中心になります。
【フェーズ2】非一族のプロ経営者による経営
一族以外のプロフェッショナルによる経営が行われます。プロ経営者たちは、専門的な知識と経験を活かしてビジネスの成長を目指します。
【フェーズ3】一族の理念に基づく資産運用
一族は「理念に基づく資産運用」へと移行します。この時期、一族はビジネスの直接運営から手を引き、一族の長期目標に合わせて資産を管理し、運用するようになります。ここでは、ビジネスそのものよりも、資産価値の維持と増加に焦点が当てられます。
資産運用のスタイルは一族の理念の共有度と運用の積極性によって異なり、理念を共有し積極的に運用するタイプA、一族理念を共有しながら保全を重視するタイプB、理念を共有せず運用効率が低下しやすいタイプC・Dに分類されます。理念の有無と運用方針は、長期的な財産価値の維持に大きく影響します。
【タイプA】
一族の理念を共有し、積極的に資産運用を行うファミリーです。このタイプは、一族の価値観や目標に沿った運用を実施し、無形資産の管理を含め、長期的な財産の成長と維持を追求します。
【タイプB】
一族の理念を共有しながらも、積極的な資産運用を行わないファミリーです。一族の理念に基づく資産の保全には焦点を置きますが、運用に関しては消極的です。
【タイプC】【タイプD】
一族の理念を共有しないで資産運用を行うファミリーです。これらのタイプでは、非効率な運用が発生しやすく、運用成績が悪化するリスクが高まります。
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年度経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。中央青山監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント営業部、みずほ証券投資銀行部M&Aアドバイザリーグループ、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部不動産投資グループなどに在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継とM&A実務を遂行した。現在は、相続税申告と相続・事業承継コンサルティング業務を提供している。
WEBサイト https://kinyu-chukai.com/
著者登壇セミナー:https://kamehameha.jp/speakerslist?speakersid=142
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