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夫「俺が頑張ったからいまがある」…高級オープンカーが引き金に
ところが、70歳の完全リタイアから半年後、誠一さんは妻に一言の相談もなく、高級輸入車のオープンカーを契約。
「昔からの夢だったんだ」と笑う夫に、加奈子さんは絶句しました。納車されたのは真紅の2シーター。価格は800万円近く。娘や孫とは一緒に乗れず、「あなた一人の夢を叶えるために、家族のお金を使うの?」と怒りが込み上げました。
「“俺がここまで頑張ったからいまがある”って、得意げにいわれたとき、もう堪忍袋の緒が切れました。その“頑張り”を支えてきたのは誰だと思ってるの?って」
以降、加奈子さんは口をきかない日が続きました。家の中に漂う冷たい空気を和らげたのは、一人娘の言葉でした。
「お父さんだって、会社を離れて寂しいのよ。少しだけ夢をみたかったんじゃない?」
その一言で加奈子さんも少し冷静になり、「家族で使える車にしよう」と提案。娘の後押しもあって、夫もようやく同意。3年後、オープンカーは手放され、代わりに孫も乗せられるセダンタイプを購入しました。
それ以来、2人での外出が増え、夫婦関係は少しずつ修復されていきました。
定年後にあふれ出す“感謝の欠落”…共通する、妻たちの叫び
夫の退職後、妻の心が冷えてしまう――。この現象は決して珍しいことではありません。
専業主婦として家庭を支えてきた妻たちの多くは、夫の社会的成功を「家族の成果」として喜んできました。しかし退職後、夫が「やっと自由になれた」と言い放つ瞬間、妻のなかでは半世紀の努力が否定されたような気持ちになるのです。
加奈子さんもこう振り返ります。
「“いままで頑張った俺を休ませてくれ”っていわれたとき、『私の50年はなんだったの?』って思いました。休みたいのは私のほうよ、って」
夫が職場で積み上げてきた“成果”の裏には、みえない家庭の労働もありました。義理の両親の介護も。そのことを顧みないまま「俺が頑張った」といわれると、妻たちのなかで“誇り”が“虚しさ”に変わってしまうのです。
昭和の社宅文化の中で、夫の仕事を支えるのが妻の役割とされてきた世代にとって、その感情はひときわ深いものがあります。
こうした背景を踏まえ、国内の研究でも、夫婦関係満足度は「結婚初期に高く、中年期に下がり、高齢期に再び上がる」という“U字カーブ”を描くとされますが、日本の女性においては、そのカーブが上がらず、低位のまま続く傾向も指摘されています。
筆者が大学院で行った老年学の研究では、60~70代の妻たちが「距離を取りながら関係を保つ」「自分の感情に折り合いをつける」といった努力を続けていることが明らかになりました。関係満足度は自然に上がるものではなく、むしろ“維持し続ける力”こそが長年の夫婦を支えているのです。

