(※写真はイメージです/PIXTA)

夫にとっては「ようやく始まる、自由な第二の人生」。 妻にとっては「夫がずっと家にいる、ストレスの始まり」。 この決定的な“視点のズレ”が、熟年夫婦の関係に静かな亀裂を生みます。本記事では、加奈子さん(仮名)の事例とともに、熟年夫婦の深刻な危機について合同会社エミタメの代表を務めるFPの三原由紀氏が解説します。※相談事例は本人の許諾を得てプライバシーのため一部脚色しています。

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妻「ともに苦労を乗り越えた結婚生活でした」

「もう、嫌いにはなれない人。でも……もう少し思いやりが欲しいんです」

 

そう語るのは、結婚50年を迎えた加奈子さん(仮名/72歳)。夫の誠一さん(同/74歳)は1950年代前半生まれ。オイルショック直後の1974年に大手電機メーカーへ入社したポスト団塊世代です。高度経済成長の終盤を駆け抜け、終身雇用と手厚い福利厚生の恩恵を受けた典型的な“企業戦士”。定年後も関連会社の顧問として70歳まで勤め上げました。

 

2人の結婚は、加奈子さんが大学3年のとき。妊娠がわかり、学生結婚を選びました。当時はいまよりもはるかに世間の目が厳しく、「できちゃった婚」という言葉すらなかった時代。周囲の反対を押し切っての決断でした。

 

卒業を待たずに出産、誠一さんは新入社員として社会に出たばかりの身で、3人暮らしをスタート。住まいは、2DKの社宅。家賃は安いものの、若い妻には息のつまる世界でした。

 

「私が一番若い“新妻”で、上司の奥さま方には気を遣いました。朝の掃き掃除や花壇の水やり、共用部の清掃当番表づくり……。子どもが生まれてからは“社宅の子ども会”の役も回ってきて、家庭のなかにも職場の序列が持ち込まれているようで、気を抜けませんでした」

 

それでも加奈子さんは、「夫がここで認められるなら」と耐え抜きました。誠一さんも、そんな妻の支えのもとで出世街道をひた走ります。40代で管理職、50代で本社部長。定年後も関連会社の顧問として70歳まで勤務しました。

 

退職金などを合わせた貯蓄は8,000万円ほど。年金も企業年金を含めて月38万円あります。外からみれば、誰もがうらやむ理想の老後――のはずでした。

 

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