「疑わしき兆候」を見逃さない、見過ごさない
文京区の「個人なりすまし型」では、健康保険証の偽造で“息子”を装い、10億円規模の契約を仕掛けました。高額・急ぎ・身分証偽造が重なった典型例です。購入側が不審点に気づき、所有者に直接確認したことで発覚しました。
大阪・ミナミの法人乗っ取り型(約14.5億円)は、商業登記を書き換えて“正規の代表者”の外観をつくり、会社名義で売却。登記の真正を装えるため、現場での発見が著しく困難となりました。事件後、多くのメディアや実務者が法人登記のセキュリティの甘さを指摘しています。
つまり、次のようなことがいえるのです。
●登記という“公的外観”を先に奪うため、取引現場では“普通に見える”
●真正な印鑑証明・会社実印が出てくる(出自は不正でも、証明書自体は本物)
●大口物件に狙いを定めやすいため、被害が甚大化する
だからこそ、法人オーナーは登記の定期監視を「最低限の自衛」としてルーティン化してください。個人オーナー・不動産事業者は、ICチップ検証・権利証事前点検・対面確認・資金の流れの固定といった地味な作業を一つずつ積み上げる、というのが最適解となるのです。
不動産の売買など、大きな資産が動く場面では「おかしいな?」と感じたら立ち止まる勇気が何よりの防波堤です。現場での違和感は、地面師のほころびです。疑問点があれば、迷わず早めに専門家へ相談してください。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
