高齢親の認知症による「銀行口座凍結」を回避したい…成年後見とも家族信託とも違う、もっと手軽な「第三の選択肢」とは?【司法書士が解説】

高齢親の認知症による「銀行口座凍結」を回避したい…成年後見とも家族信託とも違う、もっと手軽な「第三の選択肢」とは?【司法書士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本は世界に類を見ないスピードで高齢化が進展し、高齢者の5人に1人が認知症になる時代です。親の預金管理は、どの家庭にとっても避けられないリアルな問題です。本記事では、従来の「成年後見制度」「家族信託」とは異なる新しい選択肢として注目の「予約型代理人サービス」について詳しく解説します。司法書士・佐伯知哉氏が、制度のポイントや具体的な流れをわかりやすく解説します。 

認知症になると「銀行口座が凍結される」理由

「親が認知症になったら、銀行口座が凍結されてしまう…!」

 

相続や高齢者の財産管理に携わっていると、こうした不安の声を聞く機会が非常に多くなりました。表現としては少し刺激的ですが、実際に凍結によって生活費が支払えず、介護サービスの利用に支障が出るケースは少なくありません。

 

銀行が認知症に伴う口座凍結を行う理由は、大きく2つに集約されます。

 

①本人の財産を守るため 

 

認知症によって判断能力が低下すると、悪質商法や詐欺被害に遭いやすくなります。高齢者が狙われる特殊詐欺は社会的な問題となり、金融機関も被害防止の観点から、判断能力が不十分だと判断した顧客の取引には厳しい姿勢を取らざるを得ません。

 

浅い意思のもとで多額の預金を引き出してしまった場合、後から取り返すことは困難です。銀行は、そのような事態を防ぐために口座を停止する義務があると考えています。

 

②家族間のトラブルに巻き込まれないため 

 

「子どもが父の代わりに引き出した」としても、その行為が本当に本人の意思だったのか、他の家族が納得する保証はありません。金融機関は家庭内紛争の原因となる要素に関わりたくないため、本人が意思能力を失った場合には利用停止という対応を取るのです。

 

「親が認知症になったから代わりに下ろしていいですよね?」という感覚は、実は法的には一切通用しないということをまず押さえる必要があります。

銀行の代理人カードでは「凍結回避の手段」になり得ない

銀行のなかには、外出困難な高齢者のために「代理人キャッシュカード」を発行するところもあります。そのため「代理人カードがあれば、認知症になっても家族が代わりに下ろせるのでは?」と考える方がいますが、これは完全な誤解です。

 

代理人カードの趣旨はあくまで身体的な不自由による補助。判断能力がなくなれば、代理人カードであっても凍結され、ATMも窓口も使えません。つまり、凍結を根本から避けるための方法としてはまったく機能しないのです。

従来の対策は「成年後見」か「家族信託」の2択だったが…

凍結後も預金を扱える方法として、従来は以下の2つが中心でした。

 

◆成年後見制度 

 

判断能力が低下した際、裁判所が成年後見人を選任し、財産を管理する制度です。

ただし、

 

●裁判所への申立てが必要

●司法書士等の専門職が後見人に選ばれることが多い

●毎年の報告義務・費用負担

●財産の使い道に制限が多く、柔軟性が低い

 

など、利用にあたってハードルの高さと制約が大きいのが現実です。

 

◆家族信託 

 

契約により財産の管理を家族(受託者)に移し、認知症になっても家族が管理を続けられる制度。預金口座も受託者名義で新しく作れば、本人の認知症とは無関係に管理が可能です。強力な制度ですが、

 

●契約内容の設計が複雑

●専門家のサポートが必須

●不動産登記が絡むことも多い

 

という負担が生じます。

「もっと手軽に」のニーズに応え登場した、予約型代理人サービス

こうした背景から「もっと手軽に口座凍結を避ける方法はないのか」というニーズに応える形で登場したのが、予約型代理人サービスです。

 

これは、近年メガバンクを中心に導入されている新しい制度で、本人が認知症になったあとでも、家族が銀行窓口で預金を管理できるようにする仕組みです。従来の代理人カードとは別物で、制度の目的も仕組みもまったく違います。

 

利用の流れを具体的に見てみましょう。

 

①本人の判断能力があるうちに代理人を届け出る 

 

まず、本人が元気なうちに「判断能力を失った場合、この人に預金管理を任せます」と銀行に登録します。

 

原則として2親等以内の親族が代理人になれます。

 

②認知症になったら、代理人が医師の診断書を提出 

 

本人の判断能力が低下したと分かると、代理人が医師の診断書を金融機関へ提出します。これにより、銀行側は「代理人制度を発動する正当な理由がある」と判断します。

 

③代理人が預金取引を継続できる 

 

診断書が受理されると、代理人は次のような広い範囲の取引が可能になります。

 

●ATMでの入出金

●窓口での預金払い出し

●定期預金の解約

●投資信託の売却

●住所・連絡先の変更などの諸手続き

 

従来の代理人カードでは「ATMでの出金」のみに限定されていましたが、予約型代理人サービスでは、窓口手続きのほとんどを代理人が行えることが大きな違いです。

成年後見・家族信託と比較した場合のメリット・デメリット

予約型代理人サービスは、次のような特徴を持ちます。

 

●手続きが簡単(銀行で登録するだけ)

●費用がほとんどかからない

●裁判所の手続きが不要

●専門家に依頼する必要がない

●柔軟に預金の管理が可能

 

とくに「成年後見を使うほどではないが、将来の銀行凍結は心配」という家庭にとって、この制度は非常に現実的な選択肢になります。

 

一方で、この制度には弱点もあります。

 

それは、全国すべての金融機関が導入しているわけではないという点です。現状では、都市銀行が中心で、地方銀行や信用金庫ではまだ導入していないケースが多く見られます。

 

利用を検討する際には、本人のメインバンクが対応しているか確認することが不可欠です。

どんな家庭に向いている制度なのか?

予約型代理人サービスは、次のような家庭に特に有効です。

 

●親が高齢で、将来的に認知症リスクが高い

●成年後見・家族信託ほどの手間や費用はかけたくない

●預金さえ動かせれば生活に支障はない

●介護費・施設費など、毎月の支出が必要

●家族間の信頼関係がしっかりしている

●主な資産が預貯金で、不動産や株式は少ない

 

逆に、不動産の売却が必要であったり、相続全体の設計まで踏み込む必要がある家庭では、家族信託や遺言、相続税対策を含めた総合的なスキームの検討が必要です。

親が元気なうちにできる「現実的な対策」を知っておこう

銀行口座の凍結は、本人の安全を守るための制度である一方、家族が困ってしまう現実があります。

 

●成年後見は負担が重い

●家族信託は専門的でハードルが高い

●でも何もしないのは危ない

 

こうした家庭にとって、予約型代理人サービスはちょうど中間に位置する“現実的な選択肢”です。

 

大切なのは、親が判断能力を保っているいましかできない、という点です。多くの相談者が口を揃えて「元気なうちにやっておけばよかった」と語ります。

 

家族の将来の安心のために、ぜひ早めの対策を検討してみてください。

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

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