息子について触れられるたび、胸が痛んだ
神奈川県の住宅街に暮らす田所よし子さん(仮名/78歳)は、築35年の一軒家に一人で住んでいます。夫を10年前に胃がんで亡くし、頼れる身内は都内で働く一人息子・雅人さん(仮名/52歳)だけ、のはずでした。
よし子さんの収入は、国民年金と夫の遺族厚生年金を合わせた月およそ12万円。持ち家とはいえ、固定資産税や修繕費、医療費を差し引けば、手元に残る毎月の生活費は8万円を切ります。「贅沢はできないけど、息子に迷惑をかけないように暮らしてきたつもりです」よし子さんはそう話します。
平穏だったはずの母子の関係は、5年前に突如として断絶しました。
「母さん、もう連絡しないでくれ」
電話口で、雅人さんはそれだけいって通話を切りました。何度かけ直しても、つながりません。LINEも既読がつかないまま、やがてブロックされていることに気づきました。
心当たりが、まったくなかったわけではありません。雅人さんが結婚した12年前、よし子さんは嫁である美穂さん(仮名)の実家の経済力や学歴について、親戚の集まりで繰り返し話題にしました。「悪気はなかったんです。ただ、息子がいい家庭に恵まれて嬉しかったから」しかし、美穂さんにとって、それは耐えがたい屈辱だったのです。
孫が生まれてからも、よし子さんの言動は変わりませんでした。育児への口出し、「うちの家系はこうだから」という選民意識、美穂さんの料理への遠回しな批判。雅人さんは何度も「やめてくれ」と頼みましたが、よし子さんは「親が子どもを心配してなにが悪いの」と取り合いませんでした。
近所のスーパーで会う顔見知りに「息子さん、最近どう?」と聞かれるたび、よし子さんはこう答えます。
「ええ、いまアメリカの支社に赴任していて。忙しくてなかなか帰ってこられないみたいで」笑顔で、何度も、何度も。それがもう5年も続いています。
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