日本で“エンジニアを爆買い”する中国企業…奪われる「優秀な人材」、日本企業が与えられない「活躍の場」

日本で“エンジニアを爆買い”する中国企業…奪われる「優秀な人材」、日本企業が与えられない「活躍の場」
(※写真はイメージです/PIXTA)

「自前主義」が根強く残り、優秀なエンジニアを活かしきれず中国企業に流出を許す――。日本の自動車産業が抱える内部的な課題は深刻だ。一方で、ソフトウェア開発で先行する海外勢の脅威は日増しに高まり、かつての「メイド・イン・ジャパン」の栄光は過去のものとなりつつある。ガソリン車で培った強みをどう活かし、弱点を克服していくのか。湯進氏の著書『2040中国自動車が世界を席巻する日』(日本経済新聞出版)より、日本自動車業界の未来への示唆を探っていく。

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日本自動車業界への示唆

日本の自動車産業の競争力は、高い擦り合わせ技術力を要する製品を効率よく、正確にかつ歩留まり高く製造する技術にあり、高い信頼性を要求される多品種少量品を製造するサプライチェーンの存在が強みになっている。

 

SDVの場合、中国勢がアプリケーション、通信機器、ソフトなどの分野で競争力を構築したのに対し、日本は電子部品や部材、素材技術を磨き、黒子としての役割を果たしている。現時点で、日本の製造業の裾野・基盤技術や基礎研究の厚みは、中国企業をはるかにしのぐといえる。

 

しかし、かつてのIT・携帯端末市場では、携帯電話からスマホ、ノートパソコンからタブレット端末に移行するものの、パソコンメーカーや携帯電話メーカーはスマホ・タブレット端末メーカーへの移行は困難であった。果たして、ガソリン車からEV、SDVへの移行で同様な現象が起こるのか。

 

この10数年で自動車業界に地殻変動を起こすのは、クルマの機能や体験を軸とするモノづくりと、サービスを統合する事業の布石を打ち垂直統合型ビジネスモデルで遂行することであろう。そのためには、必要な事業分野を吸収・学習し、既存事業と融合してサプライズ的に価値を提供する一方、異なる分野でのサービスも準備することであろう。

 

すなわち、今後の自動車産業の覇者は単なる自動車メーカー、モビリティサービス企業ではなく、エネルギーや社会インフラで強みを持つ企業であろう。そうなると、移動空間としての自動車は、そのエコシステムの一環にすぎないといえよう。

 

デファクトスタンダードを握る米国ハイテク企業、自国市場をテコに巨大な生産能力を持つ中国企業に対し日本企業が追究すべきなのは、得意とする現場力をサービスとして提供しつつ、製造から設計・サービスへと守備領域を拡大して、付加価値を増していくビジネスモデルに他ならない。

 

しかし、ビジネスの実証は国内で実施するとしても、市場としては海外を目指すしかない。海外の高度人材の獲得・定着は、日本企業にとっては、労働人口の増加のみならず、国際競争力の向上にもつながる。また一部の中堅・中小企業は、ニッチな分野や基盤技術分野で優れた技術を持つものの、人口減少や人手不足もあいまって、機械とITを融合させた高度な生産システムを自社だけで構築することが困難になりつつある。

 

さらにスタートアップ企業の支援において遅れている日本は、今だからこそリープフロッグで海外のいいところを取り込みながら、次のステップに挑戦していく土壌を作ることが必要だろう。

 

そのためにも、米国だけでなく中国からもさらに学び、進んでいる部分を積極的に取り込む必要がある。かつての「技能の属人化」重視から「ヒト+AIの可能性」にフォーカスし、企業成長にターニングポイントを作る仕組みを構築する必要がある。

 

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※本連載は、湯 進氏による著書『2040 中国自動車が世界を席巻する日』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

2040 中国自動車が世界を席巻する日

2040 中国自動車が世界を席巻する日

湯 進

日本経済新聞出版

BYDの実力、群雄割拠の各社の戦略、CATLが見ている未来……。 知能化でどう変わるのか、産業政策の実態は、日本企業は2040年の市場で勝てるのか――。電動化を追い風に爆発的に成長した中国自動車産業。本書は、成長を生み…

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