中国政府による“メーカー選別”の始まり…2026年の中国自動車、生き残りをかけた「ホワイトリスト入り」のボーダーライン

中国政府による“メーカー選別”の始まり…2026年の中国自動車、生き残りをかけた「ホワイトリスト入り」のボーダーライン
(※写真はイメージです/PIXTA)

2024年8月、韓国仁川で中国製バッテリーを搭載したEVが発火し、大規模火災が起こった。世界市場で熾烈な「EV争い」を繰り広げる中国自動車産業にとって、こうした事故は「EVシフト」に水を差す事態だ。世界の車載電池の6割を中国が供給する今、安全性と品質の確保は急務となっている――。本稿では、湯進氏の著書『2040中国自動車が世界を席巻する日』(日本経済新聞出版)より、電動化シフトの推進に伴う中国政府の政策転換と、2026年7月から施行する「新たな国家基準」についてみていく。

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世界の「EVシフト」に水を差す「電池発火」問題

2024年8月、韓国仁川でEVから発火した大規模火災の発生が社会に大きな影響を与えた。発火した独メルセデス・ベンツグループのEVには、中国電池メーカーである孚能科技(ファラシス・エナジー)製電池が搭載されていた。「電池の安全性と信頼性を保証できない」といった論調が聞こえてくるだけでなく、電動化シフトにも暗雲が立ち込めている。

 

消費者にとって重要なのは、EVの対ガソリン車のコストパフォーマンスだけではない。利便性や安全性も重要なポイントであり、特にEV性能を左右する車載電池の品質向上は欠かせない条件だ。

 

EVの安全性や信頼性が依然懸念されるなか、中国工業情報化省は2024年6月に最新版の電池規制、「リチウムイオン電池業界規範条件」を発表。徹底的に電池発火を防ぐ策として、電池材料を含む生産技術と製品技術の向上を求めるなど、参入条件の厳格化により、電池産業の「量の拡大」から「質の高い発展」を図ろうとしている。

中国は国家基準を刷新…電池の未来を握る「3つの改定」

電動化シフトの推進に伴い、中国工業情報化省は2015年からリチウムイオン電池の安全性に関わる国家基準を施行した。

 

2018年と2021年に改定し、企業の売上高R&D比率3%以上、前年度の工場稼働率50%以上、主要製品の発明特許の保有などの選定条件を規定している。今回は3回目の改定であり、3つの変更点をあげておこう。

 

1.生産工程における技術の向上

1つ目は、生産工程における技術の向上。電池メーカーがペースト状の混合材料を金属箔に塗布した電極の測定・脱水技術を持ち、電極の含水量(10ppm)と均一性(厚さ2μm、長さ1mm)を保証する。

 

電極のバリが長すぎるとショートの原因になるため、切断・巻回・積層工法における電極の精度・バリをコントロールする。また電池セルの耐電圧および電池モジュールの内部抵抗・開放電圧を計測する能力、正極材・負極材の不純物管理や電解液の注液環境を備える。

 

2.電池の「質」の引き上げ

2つ目は、電池の「質」の引き上げ。同規定では消費型電池、駆動型電池、蓄電池の3分野に分類され、車載向け大型駆動電池の性能に求める技術水準はすでに2021年版から引き上げられている。

 

エネルギー密度の要件をみると、三元系電池では、セルとモジュールがそれぞれ9.5%増の230Wh/kg、10%増の165Wh/kgに引き上げられ、リン酸鉄系では、セルとモジュールがそれぞれ3.1%増の165Wh/kg、4.3%増の12Wh/kgに引き上げられた。

 

3.電池材料技術の向上

3つ目は、電池材料技術の向上。材料生産において単位質量当たりで取り出せるエネルギー量を表す電流容量が規定されている。正極材では、三元系とリン酸鉄系がそれぞれ155mAh/g、180mAh/gに達し、負極材では、炭素とシリコン炭素がそれぞれ340mAh/g、480mAh/gに達する。

 

またセパレーターの突き刺し強度では、電池内部に異物が混入しても破れない性能が求められ、湿式法と乾式法がそれぞれ0.204N/μm、0.133N/μmに達する必要がある。電解液生産で使用されるフッ化水素など分量も要求される。

 

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※本連載は、湯 進氏による著書『2040 中国自動車が世界を席巻する日』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

2040 中国自動車が世界を席巻する日

2040 中国自動車が世界を席巻する日

湯 進

日本経済新聞出版

BYDの実力、群雄割拠の各社の戦略、CATLが見ている未来……。 知能化でどう変わるのか、産業政策の実態は、日本企業は2040年の市場で勝てるのか――。電動化を追い風に爆発的に成長した中国自動車産業。本書は、成長を生み…

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