少子高齢化・労働力希少の日本における「積極財政」の必要性
自民党の高市早苗総裁が第104代内閣総理大臣に任命され、憲政史上初の女性総理となりました。筆者が彼女を支持するか否かはさておき、女性が総理大臣となったことは画期的であり、大きな意味があると思います。旧態依然とした大人たちの意識も変わっていくと期待していますが、子どもたちを中心に、一層男女平等への意識が浸透していくでしょう。そのことをまずは素直に喜んでおきたいと思います。
彼女の外交政策、安全保障に対する考え方などについては本稿では論じませんが、経済政策については論じたいと思います。
バブル崩壊後の長期低迷期、筆者は積極財政論者でした。金融政策で景気を回復させるのは容易ではありません。現在の工場の稼働率が低いときに金利が下がっても、工場を増設しようと考える経営者は稀だからです。そこで、
「不況で需要が足りないなら、財政で需要を追加して失業を減らすしかない」
「不況なら、財政赤字を気にせず積極財政政策を採用し、好況時に増税して財政を再建すればよい」
と考えていたのです。
「財政赤字が大きいと財政が破綻しかねない」という人もいましたが、大丈夫だろうと考えていました。そのあたりについては拙稿『巨額の財政赤字が積み上がる日本政府だが…「資金繰りは破綻しない」といえるワケ』も併せてご覧いただければ幸いです。
基本的な考え方はいまでも変わっていませんが、変わったのは状況認識です。少子高齢化による労働力希少(労働力不足と呼ぶ人が多い)となっている現在、財政出動で需要を作り出す必要はありません。そこで、最近の筆者は積極財政に否定的になっています。
広く浅く国民に金をバラまけば、物価上昇の懸念も…
与野党ともに「インフレで国民が困っているから、国民を助けるために財政を出動させるべき」と考える人が多いようですが、筆者はそれには否定的です。むしろ、インフレを抑えるためには景気をわざと悪くして物価を安定させるべきかもしれない、とさえ考えているのです。
本当に困っている人をピンポイントで助けるための財政支出は、積極財政論者でなくとも必要だと考えるでしょう。もちろん筆者も、それには賛成です。しかし、ガソリンの税を減らしたり消費税を減らしたりする政策は、広く国民に金をバラまくことになります。
広く浅く国民に金をバラまけば需要が増え、需要と供給の関係から物価が上がりかねません。国民がインフレで困っているから金をバラまく、という優しい心は理解できますが、冷たい頭脳で考えると、それはかえって国民を苦しめてしまうようにも思えるのです。
ガソリン税減税より、困っている人に「ピンポイントな支援」を
国際的に原油価格が高騰しているときに、一時的にガソリン税を減らすのであれば、理解できなくはありません。もっとも、それさえも地球温暖化を促進しかねないので、筆者は賛成しかねます。国民が苦しんでいるので助けたいということであれば、人々がドライブへ行かずに焼き鳥店に行く方向に誘導すべく、焼き鳥補助金(笑)を出す方がマシでしょう。
現在は、原油価格高騰でインフレになっているわけではなく、人件費等の諸コストが広く値上がりしていることでインフレになっているわけで、そういうときに「自動車に乗る人だけ助けてあげましょう」という政策には反対せざるを得ません。
困っている人を助ける、ということならば、本当に困っている人を集中的に助けるべきです。自動車に乗りたいけれど金がなくて乗れないというような人に現金を配るというイメージです。あるいは、趣旨は少しずれますが、子育て支援で給食を無償化する、介護士不足に対応すべく介護士の給料を補填する、といった政策もよいでしょう。
消費税の引き下げは、消費を刺激し「インフレ加速」の懸念も
消費税は、皆が払っています。富裕層の方が貧しい人より多く払っています。その税率を下げることは「困っている人をピンポイントに助ける」ことになりません。そして、消費を刺激してインフレを加速させる懸念があります。
加えて、消費税率の引き下げは、買い控えと反動増という不必要な景気への雑音を引き起こします。また、生鮮食品に対する買い控えは廃棄される食材を増やしかねません。
給付付き税額控除は「高額所得者&資産家は除く」としないと…
給付付き税額控除というものも検討されているようです。「所得税を5万円減税します。所得税を5万円未満しか払っていない人には現金を給付します」というイメージでしょう。一定以上の所得者には適用しないのであれば、悪くないと思います。「低所得者限定で5万円配る」でも同じことですね。
ここで問題なのは「低所得者イコール貧しい人ではない」ということです。「金持ちから税を取ろう」というと、高額所得者から所得税を取ることを考える人が多いのですが、多額の財産を持ち、働いていない高齢者なども大勢いるはずです。マイナンバーを使って銀行預金などを名寄せして、だれが資産家なのかを税務署が把握したうえで「高額所得者と資産家は除く」とすべきです。資産家には政治力の強い人も多いので、実現は容易ではないでしょうが、前向きに検討していただきたいと思います。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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