景気は可もなく、不可もなく…緩やかな回復を続ける見込み
景気は、緩やかに回復しています。月例経済報告には「景気は、このところ一部に足踏みも見られるが、緩やかに回復している」とありますし、コロナ慣れによる「リベンジ消費」やインバウンドの復活などが景気を押し上げているようです。
消費者物価が賃金以上に上昇しているため、消費にはマイナスの影響も懸念されるわけですが、いまのところ「綱引き」の結果は景気回復方向に向いているということなのでしょう。
景気が上を向いているときには、そのまま上昇を続ける力が働きます。物(財およびサービス、以下同様)が売れるから企業が増産する→そのために人を雇う→雇われた人の所得が増えるので消費が増える、といった具合です。
今次局面では、雇用が増えるというよりも労働力不足に対応して省力化投資が増えるというケースも多いでしょうが、いずれにしても景気にはプラスでしょう。
今年については、賃上げも予想されています。昨年は賃上げを上回る物価上昇で生活が苦しくなった人も多いでしょうが、今年はその分を取り返せると期待しましょう。そうなれば、消費は好調を維持できるでしょう。
あとは、景気の方向を変える力が外から働くか否かを考えればいいのです。ウクライナ情勢やパレスチナ情勢等、国際政治については筆者が予測することはできないため、本稿では「原油価格等に大きな影響を与えることは起きない」という前提で考えて行きましょう。
財政金融政策に関しては、景気に大きな影響を与えるようなことはないでしょう。景気が悪化しているときには景気対策が講じられますが、現在は景気対策を必要とするような経済情勢ではありません。インフレではありますが、インフレ抑制のために景気をわざと悪化させる必要までは感じませんし、そもそも輸入物価の上昇が国内物価を押し上げている時には財政金融政策でインフレを抑えることがむずかしいからです。
金融政策については、マイナス金利が撤廃される等の観測が出ていますが、それに興味を示しているのは株式市場や為替市場の人であって、国内景気を予想する際の材料としてはほとんど考慮する必要はないでしょう。株価や為替が暴落すれば別ですが、そこまでのことは起きそうもありませんから。
米国経済は、ソフトランディングするのか軽い景気後退に陥るのか、といったところでしょうから、いずれにしても日本の輸出が急激に増えたり減ったりすることは考えにくいでしょう。
中国経済は不振だが、日本への影響はそれほど心配ない
中国に関しては、不動産バブル崩壊、政府による共同富裕政策、米中対立などにより、相当深刻な景気後退が予想されます。日本の輸出にはマイナスですが、トータルで考えれば日本への影響はそれほど大きくないと筆者は考えています。
不動産バブルが崩壊しているようで、不動産建設がストップしてしまうことなどによって景気が悪化しているわけですが、金融危機は政府が防いでいるようですし、仮に中国で金融危機が発生しても人民元の世界の話ですから、基軸通貨である米ドルの国で金融危機が発生したリーマン・ショックのときとはまったく影響が異なるはずです。
最近の中国共産党は、「共同富裕」というスローガンを掲げており、経済の発展よりも共産党政権の安定を重視している模様ですので、経済活動に様々な統制や制約が課せられることも増えていて、経済活力が失われつつあるようです。
米中対立は、「中国に投資するリスク」を先進国企業に意識させるようになっており、投資先を中国以外の国に変更する企業も増えている模様です。
以上を総合的に考えると、中国経済は、年内はもちろんのこと、数年間にわたって深刻な不況が続くかもしれません。もっとも、日本への影響に関しては過度な懸念は不要です。
まず、中国は世界最大の資源輸入国なので、中国経済の不振は世界的な資源価格を引き下げる力として働きます。ガソリン価格等が下がれば人々が飲みに行く回数等が増えて景気に貢献するはずです。
加えて、現在は米国がインフレ抑制のために金融を引き締めていますが、その必要性が薄れれば、米国の経済にはプラスに働くでしょう。
中国に投資していた企業がインド等に投資するようになればインド等の経済が成長して日本のインド等向け輸出が増えるかもしれませんし、日本に投資する企業もあるでしょうから、直接日本の設備投資が増加して景気を良くする効果も期待できるでしょう。
少子高齢化で景気の波は小さくなる
景気に関して重要なことは、少子高齢化で景気の波が小さくなる、ということです。せっかく景気に関心を持って拙稿を読んでくださっている読者を失望させてしまうかもしれませんし、なにより景気予想屋である私の仕事を奪ってしまう悲しい話をしましょう。
第一に、高齢者の消費が安定していることが原因です。高齢者は年金が安定的に入りますし、老後資金の取り崩しも安定的に行ないます。ということは、高齢者向けの仕事をしている人の所得も安定しており、彼らの消費も安定しているわけです。
極端な話、若者が全員で高齢者の介護をしている経済では、景気の波はほとんどないはずです。そこまで行かなくても、それに近づいていくだけで、景気の波は小さくなっていくのです。
もうひとつ、少子高齢化で労働力不足になることも原因です。景気が良いときは超労働力不足、景気が悪くても少し労働力不足、という時代になれば、失業が発生しないので、不況が深刻化しにくいでしょう。
一方で好況にも限度があります。人々が消費を増やしたり減らしたりしようと考えても、人手不足の飲食店の前に並ぶ客の数が増えたり減ったりするだけで、実際の消費額はそれほど変動しないからです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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