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イランからEUへ…国際情勢に伴い、自由自在に販路を拡大
かつて中国製自動車の最大の輸出先だったイランへの輸出台数は、米国による経済制裁を経て急減した。2017年に36万台だったが、2021年は2000台に落ち込んでいる。その後、中南米のチリやメキシコが中国車の主要輸出先となっていた。
2022年以降は、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁に対応し、日米欧自動車メーカーがロシア市場から撤退したことにより、ロシアが輸出先の首位に浮上した。国際情勢の変化に伴って、中国自動車メーカーが海外戦略の変更を行うケースもよく見られる。
中国からの輸出台数の急拡大は、中国車のブランド力向上やNEV輸出増が主な要因としてあげられる。その輸出先もグローバルサウスなど新興国にとどまらず、EUでも着実に増加している。
2024年の輸出台数をみると、ロシア、メキシコ、アラブ首長国連邦(UAE)、ベルギー、サウジアラビア、ブラジル向けが全体の42%を占める【図表3、4】。その上位6カ国が、いずれも有力な地場自動車メーカーが国内に存在しないので、中国勢にとって、ガソリン車輸出の重点地域となっている。
実際、2024年のロシア、中東、中南米向けガソリン車輸出は、中国のガソリン車輸出台数全体の63%を占める。
EU・ASEANを中心に順調にシェアを伸ばすNEV
またNEVで国内生産規模を拡大し、海外市場でも存在感を高めている。とりわけEUや東南アジア諸国連合(ASEAN)向けの輸出が目立ち、2024年にEUとASEAN向けがそれぞれNEV輸出台数全体の32%、17%を占める【図表5】。
生産拠点が中国国内にあり、サプライチェーンもグローバル化の度合いが低いものの、巨大化した中国自動車産業は大きな一歩を踏み出し、世界の自動車勢力図を塗り替えはじめた。
追加関税もなんのその…欧米の“圧力”も、巧みな現地化で回避
海外へ活路を見出そうとしているのは、中国国内で消費が減速し新車市場の需要が縮小しているからである。
実際、海外での事業展開は、国内工場で製造した完成車を輸出し、現地で販売するのが、多額の投資もいらず、最も手っ取り早い方法である。国内工場の稼働率が上がるメリットも大きいため、特段の障壁がなければ、中国企業は完成車輸出という手段を選ぶ。
ところが、特に自動車産業が発達する国では、自国ブランドが定着したため、輸出だけでは市場に浸透するのが難しい。完成車の輸出は経済摩擦を引き起こす原因にもなりかねないため、摩擦を生みにくい現地生産を選択する傾向が強まっている。
しかし、すべての海外市場が順調なわけではなく、販売に陰りが見えはじめたのがEUである。
中国製自動車が世界市場に流入したことは、欧米諸国に警戒感を引き起こしている。特に中国製のNEVに対し、すでに輸入車に適用されている基本税に加えて追加関税を課しているほどだ。米国は一律の関税を課し、EUは各自動車メーカーが中国の政府機関から受け取っている補助金の額でメーカーごとに税率を算出した。
それに対し中国勢は、海外でNEV工場を設け、現地生産に切り替えることで関税回避を狙う。これまでの中国自動車メーカーの海外展開は、ノックダウン(KD)生産(部品をすべて輸出して現地で組み立てる方式)の内燃機関車が中心であった。平均販売単価が2024年に1万3000ドルに達したものの、日米欧のメーカーに比べて製品競争力や利益率が依然として低いのが現状だ。
しかし、欧州向けのNEV乗用車は、販売価格が平均2万8000ドルと内燃機関車平均の約2倍にもかかわらず輸出台数が伸びている。特にサプライチェーンの垂直統合を実現した中国企業は、付加価値の高い生産工程を中国国内に置くため、高い利益率を実現した。


