「家賃が払えなくなった」再び選んだ“実家暮らし”
「47歳になって、まさか実家に出戻ることになるとは思いませんでした」
そう話すのは、都内の印刷会社を非正規で渡り歩いてきた松田健太さん(仮名)。コロナ禍を機に勤務先の契約が打ち切られ、再就職もうまくいかないまま、都内のワンルームでの一人暮らしを続けていましたが、家賃6万5千円の負担が重くのしかかり、ついに実家への帰還を決断しました。
実家は地方の郊外、築50年の木造平屋。10年前に母が亡くなった後は、父(79歳)が一人で暮らしていたといいます。
久々に足を踏み入れた実家には、衝撃の光景が広がっていました。
「玄関脇の和室は、壁の一部が崩れていて中の柱が見えていたんです。雨漏りしたのか、畳もジメジメしていて……。正直、こんな状態とは思わなかった」
父は高齢で、細かい修繕や掃除は手が回っていなかったようです。床はきしみ、台所の水道からは茶色く濁った水が出ることも。テレビや冷蔵庫も10年以上前のもので、使えるかどうか怪しい状況でした。
同居にともなう家族間の摩擦以上に、松田さんを苦しめたのは“生活インフラの脆弱さ”でした。
「トイレは和式で、水漏れもしていました。ガスコンロは使えるけど、換気扇が壊れていて、料理すると家中に煙がこもる。お風呂も給湯器が古くて、まともにお湯が出ません」
エアコンもなく、夏は扇風機、冬は石油ストーブのみ。ネット環境も整っておらず、スマホのテザリングで仕事用のやり取りをしていたといいます。
「それでも“帰れる家”があるだけ、ありがたいのかもしれません」
松田さんはそう言いながらも、表情はどこか虚ろです。実家の固定資産税や修繕費のことを考えると、「住まわせてもらっている立場」として父に強く出ることもできず、かといって積極的に自腹で修繕する余裕もない――まさに“中年サバイバル”状態だと語ります。
