「今がいちばん、人の温かさを感じています」
首都圏のベッドタウンにある昭和50年代築の団地。エレベーターなしの5階建て、いわゆる“レトロ団地”ですが、65歳の佐藤美代子さん(仮名)は「この場所に引っ越してきて、本当によかった」と笑顔を見せます。
「最初はね、築年数も古いし、“団地なんて…”って思っていたんですよ。でも見学に来てびっくりしました。ご近所の方が皆、同じくらいの年齢で、玄関先で立ち話が始まるのも日常茶飯事。一人で過ごす時間より、人と喋っている時間のほうが増えました」
もともと都内のマンションで長年ひとり暮らしをしていた佐藤さん。近隣との関係はほとんどなく、廊下で会っても挨拶すら交わさないことが当たり前でした。
「防犯面ではいいのかもしれないけど、やっぱり人と関わらない暮らしは寂しかったですね。テレビをつけっぱなしにして、誰かの声を聞いていたくなる…そんな生活でした」
佐藤さんが入居を決めたのは、自治体が推進する「地域優先入居枠」を活用した市営住宅の1室。空き住戸が目立つようになったことから、近年はバリアフリー化などの改修を行い、高齢者世帯の受け入れにも力を入れています。
また、地域住民の高齢化や単身化に対応するため、「地域内在住者を優先する入居制度」や「親族の近隣居住者優遇」などの条件が設けられているケースもあります。
「この団地も、もとはファミリー向けでした。でも高齢化で空室が目立っていたらしく、いまは『65歳以上の単身者・夫婦』に優先的に案内される仕組みができています。月2〜3万円で住める上に、見守り支援や集会所での交流会もあるから安心です」
また、団地内には「買い物支援カー」や「地域サロン」などの取り組みもあり、足腰が弱くなった人でも生活がしやすい仕組みが整いつつあります。
