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『影武者』をどうやって使ってもらうか
突然スピーカーから、「はぁ〜」という深いため息が聞こえてきた。声の主は、オンライン会議に参加している反町だった。
「『売り込む』と考える時点で、まるで昭和の古い発想ですね」
日吉が「しょ、昭和って……」と言いかけると、スピーカーの反町が話を続けた。
「売り込むんじゃなくて、他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにすればいいんです……午後5時半になりましたので、退勤します」
反町はそう言うなり、オンライン会議から消えた。
残った日吉、マルクス、小杉三人ともがぼう然とした。しばらくして気を取り直した日吉が小杉に尋ねた。
「『他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにする』ってどういう意味?」
「ボクに質問されても、わからないよ」
小杉は答えたが、ニコニコしながら自分を見る日吉の目に気が付いた。
「え? ボクが調べるの?」
日吉はウンウンとうなずいた。
「小杉クン、頼りにしているわ。反町さんとうまくやっているみたいだし」
それから数日間、小杉は自分で調べたり反町に尋ねたりして、反町が言う『他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにする』という意味を何とか理解した。
(なるほど、そういうことか! この方法で『影武者』を売ればいいんだ)
「他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにする」の意味
日吉チームの打合せで、小杉は調べた結果を話すことになった。
「まずおさらいだけど……。タクシーアプリのGOを開発するエンジニアは、自分では地図ソフトなんてつくらないよね。圧倒的に完成度が高いグーグルマップがすでにあるから、同じモノをつくるのはムダだ。だからアプリのエンジニアは、自分がつくるアプリからグーグルマップの機能を使うんだ。ここまでは、いいよね?」
日吉とマルクスがうなずくのを確認すると、小杉は話を続けた。
「実はこれは、グーグルマップが世の中に広がる仕組みでもある」
日吉が首を傾げて「なんでこれで広がるの?」と尋ねた。
「たとえば、ユーチューブで音楽を公開すると、たくさんの人がその曲を知るようになって、カラオケで歌ったりして、さらに曲が広まるよね」
「確かにそうね。私もよくユーチューブで曲を覚えて、親友とカラオケで歌うし」
「仕組みは同じだ。グーグルマップは、他社アプリからネット経由で使える仕組みを整えて、アプリから使う方法もネット上で公開している。エンジニアはその情報を検索して学んで、自分のアプリをつくる。こうして、ユーチューブで公開された曲が皆に歌われて広まるのと同じように、グーグルマップも多くのアプリで使われて、広まっていくんだ。ただしこれは、グーグルマップ自体が『自分のアプリに組み込みたい』と思わせるような優れものであることが大前提なんだ」
日吉は納得した。
「なるほどね。確かにいくら曲をユーチューブで公開しても、皆が『歌いたい』と思うようないい曲じゃないと広がらないわよね」
「その通り。さらにグーグルマップは、エンジニアがグーグルマップをもっと使うように情報発信したりしてガイドを充実させている」
「私たちも同じことをやるってこと?」
「そうなんだ。まずアプリとして『影武者』を魅力的な製品に仕上げて、多くの開発者に伝える。そして、アプリを開発するエンジニアが『影武者』を使いたくなるように、開発者向けの支援を充実する。これが反町さんが言っていた『他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにする』という意味なんだ。そして、アプリを開発する会社から『影武者』を使った分を従量課金制で支払ってもらうんだ」
「なるほど。つまり他社エンジニアが『影武者』を自分のアプリに組み込んで、そのアプリをたくさんのお客さんが使えば使うほど、私たちにお金が入る仕組みなのね」
突然スピーカーから、「パチパチ」と拍手の音とともに反町の声が聞こえてきた。
「小杉さん、意外と説明が上手ですね」
