ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
アンフェアなビジネス
日吉慶子(ひよしけいこ)は激怒して、思わずイスから立ち上がった。
「納得できません! この見積り金額で合意したはずです。約束を守るのは、ビジネスの基本ルールです」
港未来(みなとみく)は感情のない目で日吉を見据えて静かに言った。
「大企業のお客様と渡り合ってビッグビジネスをもぎ取ってくるのは私たちです。悔しかったら、ご自分でビジネスを取ることですね」
下請け業務完了後、下請け業者に強要した「値下げ」
──15分前。
「下請け業務は、問題なく完了ということですね」
港は書類をひと通り確認して言った。
ここは六本木の東京ミッドタウンにある「トライアンフ社」のオフィス。トライアンフは社員4万人を擁し、多くの大企業からシステム構築を請け負う、国内最大手の総合ITサービス会社である。
港は同社の購買部・担当課長だ。東京大学を卒業後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得して同社に入社。ショートヘアで身長170センチを超え、今年30歳になる。「社内で三指に入る切れ者」「初の女性社長候補」とも称される才媛だ。
港に作業報告を終えた日吉は、笑顔を浮かべて答えた。
「はい。御社のプロジェクトのご担当にも、高い評価をいただいております」
髪をポニーテールにまとめた小柄な日吉は、ITサービス専業の中小企業「UDサービス社」で入社5年目の若手社員。傍らにはUDサービス入社直後の外国人同僚、マルクス・ハマーが、にこやかに座っていた。
トライアンフは林物産から、本プロジェクトのシステム構築全体をまとめて受注した。そしてトライアンフは、プロジェクトの一部をUDサービスに下請けとして外注。今日は、その下請け業務の完了報告である。この下請け業務の完了を承認するのが、購買部担当課長である港の役割だ。
ひと通り書類を確認した港は、事務的に日吉に伝えた。
「作業完了を承認します。ただし、お支払いは2割引です」
その後、日吉が「納得できません!」と立ち上がったのが冒頭の場面である。
そして港は日吉に通告した。
「……こちらにも事情があるんです。支払いは2割引。二度も言わせないように」
一方的な下請けへの値下げ強要である。ひと言も返せず、日吉は港をにらみつけたまま唇を嚙みしめた。
商談を終えて、六本木から渋谷にあるUDサービスのオフィスへの帰り道、黙っていたマルクスが「ケイコサン、ちょっといいデスカ」と口を開いた。
日吉が黙ってうなずくと、マルクスはマシンガンのように話し始めた。
「金額を合意して作業も終わっているのに、値下げ強要なんて、アンフェアデス」
日吉は吐き捨てるように言った。
「あり得ないわよ! アイツなんなの。港のヤツ、絶対に許せないわ!」
