マーケティングを研究中のアメリカ人、米国の大学で「“衰退する国”日本で学べ」と勧められたワケ

マーケティングを研究中のアメリカ人、米国の大学で「“衰退する国”日本で学べ」と勧められたワケ
(※画像はイメージです/PIXTA)

「お客様の要望に応えよう」と、終わりのない価格競争や機能追加に疲弊していないでしょうか。実は、顧客が口にする「ニーズ」に応えているだけでは、ビジネスは消耗戦に陥るだけだと米国人マーケター・マルクスは指摘します。彼によると、成功のカギは、顧客自身も気づいていない、心の奥底にある「ウォンツ」を発掘することにあるようで……。本記事では、永井孝尚氏の著書『【新】100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集し、イノベーションの本質と、それを生み出すための思考法を、ラーメン二郎からバルミューダまで、身近な事例で解き明かします。

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登場人物紹介

日吉 慶子(ひよし・けいこ)

本作の主人公。中小IT企業「UDサービス」の若手社員。「会社を世界一にする」という情熱(アニマルスピリット)を持つが、空回りしがち。

 

マルクス・ハマー

日吉の部下となる米国人のマーケティング専門家。「マーケティング界のロックスター」の異名を持つ。日本のビジネスを研究するために来日。

 

小杉 武蔵(こすぎ・むさし)

日吉と同期入社の同僚。内向的な性格で、情熱的で突っ走りがちな日吉に振り回されながらも、冷静な視点でチームを支える。

米国の大学で「ジャパンへ行け」と勧められて…

実はマルクスが来日したウラ目的は、ラーメン二郎だったのである。米国で日本を研究していたマルクスは、次第に日本への興味が膨張。インスタで調べるうちに日本独自の「ラーメン」という存在に辿り着き、猛烈に興味を持ち始めた。特にラーメン二郎は「ジロリアン」という信者たちが「二郎はラーメンではなく、“二郎”という食べ物だ」と言うほど愛される唯一無二の存在なのだという。

 

しかし残念ながら、米国にラーメン二郎はない。ラーメン二郎の総本山は、創業店の三田本店。マルクスはまだ聖地・三田本店に行っていない。マルクスはJR山手線で田町駅に移動し、スマホを頼りに三田本店に到着すると、十数名が行列していた。

 

(オー! ついに聖地に来たんデスネ!)

 

興奮したマルクスは、日吉との言い争いなどすっかり忘れていた。

 

行列が進み注文して席に座ると、山のような野菜や肉の下に極太の麵が浸った巨大な器が出てきた。もはや暴力的ともいえる量である。

 

ラーメン二郎のメニューは「小」と「大」の二つだけ。だが「小」でも普通のラーメンの倍、「大」は3倍の量である。さらにトッピングを「ぶたダブル」にすると、200〜300gの豚肉が麵にのる。二郎は創業時から、育ち盛りの体育会系大学生に応えるために自家製麵でコストを下げ、圧倒的な量の麵や豚を提供し続けてきたのだ。

 

「オーマイガッ! この量、何のパニッシュメントデスカ!?」

 

店内の冷ややかな視線も気にせず、マルクスは大声をあげた。しかし声が出たのはそこまで。注文した「小」でも麵の量が多過ぎて、食べても食べても麵が減らない。他の客と同様、マルクスも黙々と麵との格闘を始めた。そして完食して二郎の初体験を終えたマルクスは、不思議と「至高の幸福感」に包まれた。

 

「『生きる』ってこういうことなんデスネ。これがジロリアンの世界デスカ……」

 

二郎詣での2日目もマルクスは麵と格闘しながら、米国でマーケティングを教わった指導教官の言葉を思い出していた。

 

「マルクス、キミの知識は素晴らしい。でもこのままでは“評論家”のままだ」

 

古今東西の理論を知り尽くしている点で、マルクスは大学でも一目置かれていた。そんなマルクスに指導教官はこう伝えたのである。

 

「このままじゃ単なる物知り博士なだけだよ。マーケティングの世界で大成したいのなら、ビジネスの現場を知るべきだ。できれば海外がいい。オススメはジャパンだ」

 

「ジャパン? 衰退する国デス。ホワイ?」と聞くマルクスに教官は笑顔で答えた。

 

「確かにジャパンは今、低迷している。でもそのうち成長すると私は見ている」

 

そして来日早々、日吉から「アナタの言うことは全部『机上の空論』。現場では1ミリも役に立たないわ」と、指導教官と同じことを激しい言葉で言われた。薄々わかっていた自分の問題を指摘され、つい感情的になったマルクスは落ち込んでいた。

 

(デキン……(※)。クビってことデスネ……)

 

※編集注:これは、前日の口論がきっかけである。日吉がお客様への貢献を「ローラー作戦(足で稼ぐ営業)」の努力で語ったのに対し、マルクスが「頭を使っていないムダな努力だ」と批判。これに激怒した日吉が「アナタなんか出禁(出入り禁止)よ!」と言い放ったのだ。理論ばかりで現場を理解していない、と決めつけられたマルクスは、自分の弱点を的確に突かれたと感じ、深く落ち込んでいた。

 

そう思いながらやっと食べ終えた「小」の器をカウンターに戻したその時、マルクスの横に座っていた小柄な女性が「ごちそうさま〜。大ぶたダブル美味しかったぁ」と言いながら、マルクスが戻した「小」の1・5倍はある「大」の器を戻した。聞き慣れた声にマルクスが思わず振り返ると、そこには日吉慶子がいた。

次ページ「ウォンツ」と「ニーズ」の違い

※本連載は永井孝尚氏の著書『【新】100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

【新】100円のコーラを1000円で売る方法

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永井 孝尚

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