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「ウォンツ」と「ニーズ」の違い
マルクスとオフィスに戻った日吉は、小杉に声をかけて打合せを再開した。
日吉が正直に、マーケティングの本を買い込んで情報を集めて分析を始めたものの、情報が多過ぎて何をすればいいかわからないことを話すと、マルクスが答えた。
「マーケティングを学び始めたのは、とてもいいデスネ。問題は『分析麻痺症候群』に陥ったことデス。分析する情報が多過ぎて感覚が徐々に麻痺すると、根本の『戦略を立てること』をすっかり忘れて、ただ分析しているだけの状態になることデス。マーケティングを始めると、真面目な人ほど、一度はこうなりマス」
「うわっ。まさに私だ」日吉は頭を抱えた。
「分析も大事ですが、それだけじゃダメデス。お客を観察して学ぶことデス。でもお客の言う通りにしてもダメデス。ここが微妙に難しいんデス」
「お客を観察して学べ? でも言う通りにはするな? 頭が混乱するわ」
マルクスは、オフィスにあるデスクライトを指さして、続けた。
「たとえばデスクライトの新商品を考えるとしマス。機能や価格はどうしマスカ?」
小杉がスマホでデスクライトを検索しながら答えた。
「使いやすくしたり、LEDで省電力にしたりとか、かなぁ。価格は3000円から5000円が多いから、そのくらいでしょ」
マルクスも自分のスマホを検索して二人に見せた。
「世の中には4万円のデスクライトがありマス。しかもこの製品、売れてマス」
「高ッ。どんなモノ好きが買うの?」
スマホ画面には「Balmuda The Light」という製品が表示されていた。
「Balmudaの寺尾玄(げん)社長はデスクライトを使って勉強する自分の子どもを見て、頭の影で手元のノートが見えづらいことに気付きマシタ。『これでは目が悪くなる』と考えて、影ができない方法を探して発見したのが、病院の手術室にある手術灯デス。手術灯は、手術中でも手元に影ができない光をつくってマス。そこで子どもの目を守るために、手術灯の技術で影が出ないようにして、太陽光LEDでブルーライトもカットしてつくったのがこの製品デス。子どもの目を守りたい両親や祖父母は少々高くても買いマス。この事例から学べるのは、ウォンツとニーズの違いデス」
話を聞いていた日吉は首を傾げた。
「ウォンツとニーズ? 日本語だと、両方とも『お客の要望』よね」
「ウォンツは『世の中にないけど本当はお客さんがほしいモノ』デス。世の中にないので、お客に『ウォンツは何デスカ』と聞いても教えてくれマセン。寺尾社長は『子どもの目を守りたい』と考えて世の中にない製品をつくりマシタ。ウォンツは寺尾社長のようなつくり手が洞察して初めて見つかりマス。ウォンツが新市場を創造しマス」
「じゃあ、ニーズは?」
「製品が出るとお客は『白が好き』『軽くして』と言い始めマス。これがニーズ、つまりお客の好みデス。ニーズはお客が教えてくれマス。でも、ニーズ対応だけでは他社との競争になり、待っているのは値下げ合戦の消耗戦デス」
「うわッ。まさにウチが陥っている状況だわ。カギはウォンツの発見ってことね」
日吉が言うと、マルクスはうなずいた。
「お客が教えてくれるのはヒントだけデス。ウォンツのヒントは、①お客を観察して、②自分で考え続けると見つかりマス。寺尾社長も子どもを観察して『目が悪くなる』と気付き、考え続けマシタ。問うべき相手はお客ではなく、自分デス」


