(※画像はイメージです/PIXTA)

相続の現場では、関係者同士がぶつかり合うのはよくあることです。問題が複雑化して当人同士の手に負えなくなれば、専門家のところへ持ち込まれることになりますが、たいていは穏当な着地点を見出せます。しかし、ときにはそこで、耳を疑う残酷な言葉を聞くこともあります。不動産と相続を専門に取り扱う、山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

弁護士に持ち込まれるのは「深刻な状況」になってから

「争続」「争族」という言葉が周知されてきたことからもわかるように、相続における親族間でのトラブルはよくある話です。

 

たいていは、親族が相続の話し合いを進めるなかで、過去の問題やそれに伴う個人の思いがぶつかり合い、激しいやり取りへと発展します。結果、親族間の人間関係が壊れるばかりか、相続自体も不本意な結果になりがちです。

 

感情的な諍いと遭遇する機会は、税理士の方のほうが多いかもしれません。弁護士のもとに持ち込まれるのは、そこからさらに複雑化・膠着化した問題であり、そのため「口喧嘩」レベルではすまない、最後の一撃となるような「残酷なひと言」が言い放たれるのを、目の当たりにすることになります。

「不出来な二男は、長男に全財産を渡すように」

ある資産家の一族の事例です。優秀で出来がよく、どこに行ってももてはやされる長男と、平凡ではあるものの、一般企業で真面目に働いている二男のふたりが相続人でした。父親は数年前に亡くなっており、余命いくばくもない病床の母親は、遺言書を用意しました。母親が旅立ったあと遺言書を見てみると「遺産はすべて長男へ」と明記され、二男には「とにかく黙って印鑑だけ押すように」との指示と、ハンコ代としてわずかな金額が書かれていました。

 

付言事項には、いかに長男が素晴らしくて二男がダメかという内容の文面が綿々とつづられていました。筆者も実物を読みましたが、他人事ながら大変なショックを受けました。相談者である二男の方がいうには、母親には子ども時代から兄と激しく差別され、まともに向き合ってもらった記憶がないということでした。

 

「父親は子どもに無関心な人でしたが、少なくとも母ほどひどい差別はありませんでした。しかし、父親は急に亡くなり、遺言書もなかったものですから、その後はすべて母親が思い通りにしたのです」

 

子ども時代から、母親に気持ちを向けてもらいたくて、面倒な役割をすべて引き受けてきたものの、最後の最後に受けた仕打ちがこれでした。兄は弟を気遣うどころか、母親同様軽くあしらうばかりで、鬱積した気持ちがとうとう爆発しました。せめてもらえるだけの遺産はもらいたい、というのが相談者の方のご希望でした。

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