「親のために使ったのに…」被相続人名義の口座から預金引き出し→多額の課税に涙。「みなし贈与」の“境界線”はどこ?【税理士が解説】

「親のために使ったのに…」被相続人名義の口座から預金引き出し→多額の課税に涙。「みなし贈与」の“境界線”はどこ?【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

相続税の計算において、被相続人が生前に行った財産の移動が「贈与」と認定され、思わぬ相続税の課税が発生してしまうことがあります。特に、預金口座から多額の現金が引き出されその使い道がわからない場合、そのお金が誰に、どのような目的で渡されたのかが大きな争点となります。こうした課税処分に不服がある場合、納税者は「国税不服審判所」に審査請求を行うことができます。亡き親Aさんの口座から預金を引き出したBさんは、税務署の「みなし贈与」の認定に反論。どのような裁決が下ったのでしょうか。実際の裁決例から、「みなし贈与」となる理由と思わぬ課税を避ける方法についてみていきましょう。

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「証拠不十分」として、審判所はみなし贈与があったと判断

国税不服審判所はまず、Aさん名義の預金口座から現金が出金されたこととBさんの預金口座に入金があったことの関係性を認め、AさんとBさんとのあいだで財貨の移動があったと認定しました。

 

次いで、相続税法に規定する「みなし贈与」の要件について、財貨の移動があった場合に、その後にその財貨が実際に返還された、あるいは返還されることが確実であるといった特別な事情がない限り、贈与と認めるのが相当であると前提としたうえで、今回のケースでは、Bさんが、自身が多額の自己資金を有していたことを示す客観的な証拠を提出できなかったこと、また、出金した現金をAさんが自身の生活費として費消したことについても証拠上明らかではないことなどを指摘。

 

これらの事実から、BさんがAさんから対価を支払うことなく受けた利益に相当する金額については相続税法の「みなし贈与」があったものとみなすのが相当であると結論付けました。

思わぬ課税を避ける「2つ」のポイント

この事例は、親子など親族間での金銭のやり取りが、「みなし贈与」として相続税の課税対象とみなされるかどうかの重要なポイントを示しています。逆にいえば、「みなし贈与」とされないためには以下のような点に気をつける必要があります。

 

1.お金の動きを記録する

家族間であっても、多額の金銭を移動させる際には、そのお金の出所や使途、そして贈与なのか貸付なのかを明確にすることが不可欠です。この事例のように、使途が不明なまま被相続人の口座から多額の現金が引き出された場合、税務署は贈与と判断する可能性が高いといえます。

 

2.「贈与」の推定を覆す証拠を用意する

「贈与ではない」と主張するためには、そのお金が自身の収入や貯金であることを証明できる明確な証拠(銀行の取引履歴、源泉徴収票など)が必要となります。

 

「みなし贈与」は、経済的な利益が移動した事実があれば、それが贈与の意図をともなうかどうかに関わらず、贈与とみなすことができる規定です。思いがけない課税が発生してしまうことのないよう、日頃から財産の管理と金銭のやり取りには慎重な対応が必要となります。

 

 

高橋 創

税理士

 

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