(※写真はイメージです/PIXTA)

自宅の庭園設備にも相続税が課される――そんな一見意外な事例が国税不服審判所で争われました。納税者は「市場で売れないため価値はゼロ」と主張しましたが、裁判所は「造園にかかった費用に基づき評価すべき」と判断。個人宅の庭だからといって評価を免れることはできないことがあるという点が明確に示されました。本記事では、庭園設備の評価をめぐる裁決の内容と、相続税申告での注意点を解説します。

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相続税法における「時価」と評価通達の関係

相続税法では、相続によって取得した財産の評価を「取得時の時価」によるべきと定めています。ここでいう「時価」とは、一般に市場において取引されるであろう客観的な交換価値を指します。しかし、全ての財産が活発な市場で取引されているわけではないため、国税庁は、実務上の公平性と効率性を確保するために「財産評価基本通達」(以下「評価通達」)を定め、画一的な評価方法を規定しています。

 

評価通達に基づく評価額は、原則として相続税法上の「時価」として扱われます。ただし、「通達の定めによる評価が著しく不適当と認められる特別な事情」がある場合には、例外的に通達評価を適用しないことも可能です。

 

今回は、自宅にある庭園設備が相続税法上の財産に該当するか、そして一般家庭の庭にも評価通達による評価が必要かどうかが争われた事例(令和5年3月7日裁決)を紹介します。

自宅庭園設備の評価をめぐる争い

Aさんは相続税申告にあたり、自宅の庭園設備には市場での客観的な交換価値がないとして、評価額を0円と申告しました。しかし税務署は、この庭園設備が評価通達に定める「庭園設備」に該当すると判断し、評価通達に基づく評価が必要としました。

 

評価通達では、「庭園設備(庭木、庭石、あずまや、庭池等)」について、以下の算式で評価します。

 

庭園設備の価額 = 調達価額 × 70%

 

ここでいう「調達価額」とは、「課税時期においてその財産を現況のまま取得する場合に必要な費用」を指します。つまり、一から同様の庭を造り直すのに必要な総費用が評価額のベースとなります。

 

税務署は、専門業者の意見等を基に調達価額の70%で算定した評価額を提示し、Aさんの申告が過少であるとして更正処分を行いました。これに対し、Aさんは処分の取り消しを求め、国税不服審判所で争うことになりました。

争点:庭園設備は市場価値がないから0円評価でよいか

自宅の庭園設備について、「市場での交換価値がない」ため、評価通達を適用せず評価額を0円とできるかが争点となりました。

 

納税者の主張:市場性がない庭園に高額評価は不当

Aさんは、この庭園設備は立地条件が悪い上、個人宅の庭という性質上、一体として市場で売却しようとしても買手が見つからず交換価値は存在しないと主張しました。

 

仮に売却が可能だとしても、庭石、灯篭などを個別に分解して売却せざるを得ず、その場合の買取価額は、搬出や運搬の費用を差し引けば極めて低額にしかならないとしました。

 

さらに、個人宅の敷地内にある庭園設備は入場料を取れるようなものではなく、そのような経済的な使用価値がない財産に対して高額な評価を課すのは不当であるとし、評価通達の定める画一的な方法で評価をすることが著しく不適当と認められる「特別の事情」に該当すると主張しました。

 

税務署の主張:金銭に換算可能な価値がある以上評価対象

税務署は、相続税法上の「財産」は金銭に見積もりが可能な経済的価値のある全てのものを指すことを確認したうえで、この庭園設備は複数の専門業者によって金銭的な価値が認められていることなどから相続税の課税対象となる経済的価値を有することは明白であると反論しました。

 

評価通達の適用を適用しないための「特別の事情」は存在せず、通達に基づく評価が適正であるとしました。

 

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