「親のために使ったのに…」被相続人名義の口座から預金引き出し→多額の課税に涙。「みなし贈与」の“境界線”はどこ?【税理士が解説】

「親のために使ったのに…」被相続人名義の口座から預金引き出し→多額の課税に涙。「みなし贈与」の“境界線”はどこ?【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

相続税の計算において、被相続人が生前に行った財産の移動が「贈与」と認定され、思わぬ相続税の課税が発生してしまうことがあります。特に、預金口座から多額の現金が引き出されその使い道がわからない場合、そのお金が誰に、どのような目的で渡されたのかが大きな争点となります。こうした課税処分に不服がある場合、納税者は「国税不服審判所」に審査請求を行うことができます。亡き親Aさんの口座から預金を引き出したBさんは、税務署の「みなし贈与」の認定に反論。どのような裁決が下ったのでしょうか。実際の裁決例から、「みなし贈与」となる理由と思わぬ課税を避ける方法についてみていきましょう。

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亡きAさんの口座から多額の資金移動…これは「贈与」か?

この事例(令和2年11月17日公表裁決)は、被相続人であるAさんの預金口座から多額の現金が引き出され、そのお金が相続人であるBさんの預金口座に入金されていたことを発端とします。

 

税務署は、Aさんの預金口座からBさんが頻繁に、かつ使途が不明な多額の現金を引き出している一方、Bさんの口座に同時期に原資不明の入金があったことから、この現金はAさんからBさんに贈与されたものとみなして相続税の更正処分を行いました。

 

民法上の贈与契約では、双方の「あげる意思」「もらう意思」があり、それが合致することが必要です。しかし、相続税法では、形式的には贈与契約がない取引であっても、実質的に財産が無償で移転した事実があれば贈与とみなされ、贈与税や相続税の課税対象とされます。この制度は「みなし贈与」と呼ばれます。

 

税務署は、「財産が被相続人から第三者へ移動した事実がある」「その財産に対して正当な対価が支払われていない」という点から「みなし贈与」を主張しましたが、Bさんはこれを認めず、処分の取り消しを求めて審査請求を行いました。

「対価なしの利益」かどうかが争点に

Aさんの預金から引き出された使途不明の現金は、Bさんへの贈与と認定できるのか否か。

 

今回の事例では、AさんからBさんへと多額の金銭が移動した事実があった場合に、それが「対価を支払わないで利益を受けた場合」に該当するかどうかが問われました。

 

納税者Bさんの主張

Bさんは、Aさんの預金口座から出金された金銭は、Aさん自身の生活費や賭け金、旅行費用などに費消していたものであると主張するとともに、Bさん自身には役員報酬や事業収入のほかに個人的な資金援助者からの多額の自己資金があり、Aさんから贈与を受ける必要はなかったとしました。

 

税務署の主張

税務署は、Bさんの預金口座に原資が明らかではない入金が多数回、多額にわたって行われていたこと、Bさん自身の給与収入などではこれほどの金額を自身の口座に入金することは困難であること、Aさんの口座はBさんの関係者が管理していた事実が認められることなどを指摘。

 

Aさんの口座から出金された現金の多くは、Aさん本人によって消費されたとは考え難いとし、これらの金額はBさんが対価を支払わないで利益を受けたものであり、相続税法に基づきAさんから贈与により取得したものとみなすべきであると反論しました。

 

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