(※写真はイメージです/PIXTA)

2015年、「天ぷら圓堂」の主人・遠藤弘一氏は夢であった米国ビバリーヒルズに出店しました。しかし、その華やかな挑戦の裏にあったのは、ビザが取れず信頼できるスタッフも集まらないという過酷な「人材確保」の現実と、日本の常識が通用しない「商慣習」との衝突でした。同氏の著書『まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、海外進出の裏に潜む、リアルな障壁と教訓をみていきましょう。

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海外でのスタッフ探し

スタッフについても悩みました。山本くんからは、現地のアメリカ人を雇うのはやめたほうがいいと言われていたのです。なぜなら、アメリカ人は愛社精神がうすく、経営者が日本人だとわかった途端に騙すことしか考えない人が多いというのです。それを知ってしまったら、別な方法を考えるしかありません。

 

板長となる人間は、本店の総料理長に、また接客は本店のスタッフに頼みました。ビザを取得するのにも細かい決まりがあり、この二人の分しか取れなかったのです。

 

あとは、現地にいる日本人を募集しました。これも身元のきちんとした人で社会保障番号を持っている人でなければ、何かあった時に店側にとんでもないペナルティを科せられる可能性があるのです。しかしグリーンカードを持っている日本人で、ウチの店で働きたいという人はあまりいませんでした。仕方がないので、人が見つかるまでは、90日の短期商用(ビザ免除プログラム)を使って、本店から何人も派遣をして、つないでいったのです。

 

現地でスタッフの手配ができたら、本店と同じように、店の掃除や接客などをしっかり学んで身につけてもらいました。そうすることで、お客様に日本を体験していただき、「天ぷら圓堂」の味を堪能いただけるのです。そこまでの作業をすべて終えて、ようやく支配人である山本くんにある程度任せられるようになりました。

 

こうして夢だったアメリカ・ロサンゼルスに店を持つことができたのです。お客様の中には、出張で日本に行ったことがあるという方や、「日本の本店で天ぷらを食べたことがある。看板を見て懐かしくて思わず入ってきた」というアメリカ人のお客様もいました。とても嬉しかったです。

 

アメリカに店を持って思ったことは、アメリカの権利主張主義のすごさでした。例えば、原材料費が上がったとします。それはお店側のせいではありません。だから価格を上げて、100円だったものを150円にします。それがよしとされているのです。

 

それが繰り返されるとどうなるでしょうか。今は、円安という事情もありますが、アメリカで少し前までラーメンが1杯3000円だったものが、5000円になっています。それを当たり前としているのがアメリカです。商売する側も、原価が上がるのは自分たちのせいではないのだから、仕方がありません。客側も、それを受け入れています。受け入れられない、またはそれだけの料金を払えない人は店に来なければいいという考えです。

 

これが日本だったら、そうはいっても、お店側がまず原価が上がったら、なんとか原価を抑える工夫をします。そういうことがまったくないのです。これには驚きましたし、違和感を覚えました。

 

2023年、ハワイにもワイキキ店をオープンしましたが、そこでも同様に原価が上がり、価格を上げました。しかし人件費も上げざるをえない状況だったので、これでは採算が取れないし、価格の高騰にも限界があると感じたので早々に撤退しました。

 

ビバリーヒルズ店は、2025年の現在も赤字を出すほどの大きな失敗もしていません。野球でいうところのクリーンヒットくらいの結果を出し続けています。この店を出したことで、海外で商売を始めることのハードルの高さ、また、商売を続けていくことの難しさを学びました。

 

 

遠藤 弘一

株式会社圓堂

代表取締役

 

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※本連載は、遠藤弘一氏の著書『まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・編集したものです。

まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記

まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記

遠藤 弘一

幻冬舎メディアコンサルティング

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