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男一人、祇園の女たちに育てられて
私が物心ついた頃には、母は「お茶屋近江榮」の4代目当主として、毎日忙しく店を切り盛りしていました。祇園の街は女性が多く、私の家も例外ではありません。家にいる人間は、私を除くと、祖母と母、二人の姉にお手伝いさんと、全員が女性でした。そのため、私は幼少期に男性と接した記憶がほとんどなく、小学校に上がるまで二人の姉とおままごとやゴム跳び、あやとりなどをして遊んでいました。
幼い頃から少し年上の姉たちの輪に入って毎日を過ごしていたせいなのか、私は小学校に上がるまで、自分のことを「僕」とか「俺」と言ったことがありませんでした。乳母日傘(おんばひがさ)で周りから大事にされ、忙しい母の代わりに祖母が私を育ててくれたこともあり、良く言えばとても繊細で優しい子ども、悪く言えば気の弱い子どもになっていたのです。
私が気の弱い物静かな子どもに育ったのは、もう一つ理由があります。それは、当時の私たちの住まいが母の営むお茶屋であったことです。お茶屋の中で暮らすということは、母の仕事の邪魔をしてはいけないということ。特に夜、お茶屋にお客様がいらっしゃる時は、騒いだり、大きな音でテレビを観たりすることは絶対に許されませんでした。
お茶屋に通われるお客様はお金を払って非日常を楽しみに足を運ばれます。そこに家庭の日常が垣間見えたら、すべてが台無しです。当初は、年相応に振る舞えない日々が、子ども心に寂しくて、とてもつらく感じましたが、いつの間にかそれが私にとっての日常になっていきました。
こうした祇園特有の環境でずっと暮らしてきましたが、私自身は自分で気が弱いとか、物静かとかいう自覚はありませんでした。ところがある日、自身の弱さに気づかされる出来事が起こりました。
「父」との出会い
それは、私が10歳くらいの頃、店のお座敷で父と鉢合わせた時のことです。父は一緒に暮らしていたわけではなく、母が営むお茶屋に客として時々訪れていました。母は父の正妻ではなく、父が店に来るのも母に会うためだったのです。
当時の祇園では、お茶屋の女将が戸籍上の夫を持たないのが普通とされていました。
表向きには一人の当主として店を切り盛りし、男性に頼らずに自立することが求められるそれがこの街の不文律だったのです。
そんななかで、たった一度だけ父に出会ったその場面。なぜか私は、父に対して怒りがこみ上げてきました。何が原因だったのかはわかりませんが、この時は確かに、幼いながらに何か大きな違和感を抱いていました。
ずっと自分には父親がいないと思っていたのに突然現れて、その男がとても強そうに見えたのが面白くなかったのかもしれません。もしくは、父をもてなす母がいつもと違う柔らかい表情を見せていたからなのか……。
とにかく腹立たしくて、自分の心の中に、それまで感じたことのない黒い塊のような強い感情が湧き出てくるのを抑えられず、父にぶつけたくなりました。
私は母の前で悠然と座りながらお酒を飲んでいる父のそばに行くと、拳で背中を叩いたり、お相撲さんのように体当たりでぶつかったりして、父を押し倒そうと懸命に試みました。しかし、父はびくともしません。それどころか、そんな私をハエでも払うかのように片手で押し返します。そのたびに私は歯を食いしばって立ち上がり、何度も父にぶつかっていきました。
結局、父は私と話らしい話をすることなく帰っていきました。それが、私が唯一覚えている父との思い出です。それは私が初めて“大人の男性”という存在と向き合い、自分がいかに非力で、未熟であったかを思い知らされた瞬間でした。胸の奥に残ったその感覚は、今でも忘れることができません。
遠藤 弘一
株式会社圓堂
代表取締役
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