築40年の木造アパートを売却したら、突然「税務署」から“お尋ね”が届いたワケ【税理士が解説】
出口戦略で最も多い売却時に注意すべき法的リスクと交渉ポイント
実務で最も多いのが「売却」にまつわるトラブルです。
(1)査定価格と実勢価格のギャップ
「買ったときはいくらだった」「知人はもっと高く売った」といった“過去”に引きずられてしまうと、いまの相場を見誤ります。複数の不動産会社に査定を依頼し、「いま、売れる価格」を冷静に把握することが重要です。
(2)買主との契約トラブル
古い物件では、配管や設備、雨漏りなど“見えないリスク”が多数あります。こうした点を隠したまま契約すれば、契約不適合責任を問われる可能性も。事前に弁護士と相談し、特約で明確にするなど防衛策が必要です。
「契約不適合責任免責特約」によって契約不適合責任から免れる措置が基本ですが、不具合について売主が「悪意=不適合を知っていた場合」だと免責特約の効果を覆されるため、「物件状況報告書」などの記載も入念にチェックする必要があります。
(3)入居者との調整
賃貸中の物件を売却する場合、入居者の退去や契約継続の判断が必要になります。無断で契約解除を進めるとトラブルになることもあり、明渡しには「正当事由」や立退料が絡むケースが一般的です。一番多いのが、売却とは異なりますが、建て替え時の入居者との権利関係の整理です。
出口戦略=人生戦略の再設計
出口戦略とは単なる「手放す」ではなく、次のステージをどう設計するかという視点でも考えるべきです。
たとえば、管理が大変な地方の築古アパートを売却し、都市部の区分マンションへ買い替えることで、収益の安定化と手間の軽減を両立できるケースもあります。また、得た資金を事業投資・教育資金・老後資金などに回すことで、より自分らしいライフプランを描くことも可能になります。
弁護士の立場から…筆者自身の売却体験で感じたこと
筆者自身も、かつて築古アパートを所有していました。当初は大家業の経験を積む目的で購入した物件でしたが、独立・結婚・子育てとライフステージが進むなかで「この物件を本当に10年後も持ち続けたいのか?」と疑問を感じ、売却を決断しました。
実際に売却を進めてみて感じたのは、「買うときよりも、売るときのほうがはるかに“準備”が大事」だということ。税務処理・契約の整備・賃借人との関係整理など、やるべきことが多く、弁護士としての知識と経験がなければトラブルになっていたかもしれません。
だからこそ、「感情で売る」のではなく、「戦略と準備」で売却を進めることの重要性を強調したいと思います。
中古アパート経営の出口戦略は、単なる資産の売却ではなく、相続・税務・契約といった複合的な法的リスクが絡む総合戦略です。「そろそろ終わりを考えたい」「家族に迷惑をかけたくない」「できれば円満に整理したい」そうお考えの方こそ、不動産会社、金融機関、各種専門家など、その道のプロに相談しましょう。最後は「これで本当にいいのか?」とちゃんと自問しながら、感情ではなく戦略的に売却方針を固めることをお勧めします。
山村 暢彦
山村法律事務所
弁護士

