(※写真はイメージです/PIXTA)

長年にわたり不動産賃貸業を営むオーナーにとって、収益物件は安定収入の柱である一方、自身の認知症や相続への不安は尽きません。その備えとして有効なのが「家族信託」です。特に資産管理法人と組み合わせることで、万一認知症になっても会社の経営を止めず、株式という形で経営権をスムーズに次世代へ承継できるなど、より盤石なリスク対策が実現します。本記事では、賃貸不動産の相続における家族信託を活用した現実的な戦略を、実際の事例を交えて不動産相続の最前線で活躍する司法書士の近藤崇氏が解説します。

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不動産の承継に役立つ「家族信託」

「家族信託」とは、財産を所有する人(委託者)が、親族(受託者)に財産の管理・運用・処分を任せる仕組みです。認知症対策や柔軟な承継計画に活用できる「次世代型の財産管理手法」として注目されています。

 

以下のような場面で、家族信託はとても有効な対策となります。

 

・認知症を発症した
……不動産の名義変更をせずに賃貸経営を継続できます。物件売却時に認知症を発症していても売却契約を締結することが可能です。

・老人ホームなどに入所した
……家賃収入を本人の生活費や医療費に充てることができます。

 

以下に具体的な事例を何点かあげ、その活用方法を検討してみましょう。

 

事例1.「家族信託」+「任意後見契約」のW使いで認知症リスクを回避

77歳のAさんは、老後の一人暮らしが心配になり、将来的な施設入所も視野に入れていました。しかし、認知症になってしまうと、賃貸不動産の売却や預金の引き出しも困難になるリスクがあります。

 

今後の一人暮らしと認知症リスクが心配になったAさんは、Aさんの長女が受託者となって、自宅と預貯金の一部を信託財産とする「家族信託」を導入することにしました。さらに念を入れ、本人の判断能力が落ちた段階で効力が発生する「任意後見契約」をAさんと長女とのあいだで行うことに。

 

こうすることで、仮にAさんが認知症を発症し、契約行為ができなくなってしまったとしても、家族信託を設定した財産はAさんの財産からの分離管理がなされています。さらに、それ以外の財産(=家族信託に含めていない財産)については任意後見契約を発動し、任意後見監督人の選任を受けた任意後見人が管理することが可能です。

 

このように制度を二重で用いることで、Aさんは財産が漏れることのない柔軟かつ安全な管理体制が整いました。

家族信託は、「資産管理法人」の承継にも役立つ

家族信託は自由度が高い一方で、成年後見制度などと違い家庭裁判所や後見監督人からのチェックを受ける機会が少ないため、なにか問題があっても表面化する機会がない傾向にあります。そのため、家族間の合意形成と、第三者による監視体制が非常に重要です。

 

家族信託は、委託者の子どもが当初の受託者になるケースが大半ですが、この子どもと親の関係性、また子ども同士の関係性によっても使い分けをする必要があります。

 

事例2.親子間・きょうだい間の関係性が良好な場合

80代のBさんには、2人の子ども(長男・長女)がいます。Bさんと子どもたち、また子ども同士の関係性が比較的良好だったことから、Bさんは次のようなスキームで家族信託を導入しました。

 

・Bさんが委託者兼受益者

・長男が当初の受託者

・長女については信託監督人および受益者代理人として設定。収益アパートなど重要財産の処分については、受益者代理人である長女の同意を必須とする。

・Bさん死亡後、残余財産は2人が平等に取得する。

 

Bさんの信託の目的は、いずれ訪れるであろう施設入所や介護に備えた資金確保と、その際に柔軟に不動産の処分ができるようにすることです。

 

このため、親族内で役割を分担し、一定の形で子ども同士が緩やかに監視をする形式の家族信託を採用しました。

 

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本記事は『アパート経営オンライン』内記事を一部抜粋、再編集したものです。

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