トランプ再登場で振り出しに? デジタル課税をめぐる国際交渉の危うい未来【国際税務の専門家が解説】

トランプ再登場で振り出しに? デジタル課税をめぐる国際交渉の危うい未来【国際税務の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

大手IT企業による租税回避の問題を背景に、OECDは2015年以降「BEPS包摂的枠組」のもとでデジタル課税の国際ルール作りを進めてきました。その成果として2020年に公表された「柱Ⅰ」(市場国への課税権の配分)と「柱Ⅱ」(法人税の最低税率制度)は、各国の利害を調整するための重要な枠組みです。しかし、アメリカの政権交代を契機に交渉は不透明さを増しており、DST(デジタルサービス税)の存続や関税対立といったリスクも現実味を帯びています。本稿では、OECDの取り組みとアメリカの対応を中心に、デジタル課税の課題と今後の展望について考察します。8月に『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』を刊行した矢内一好氏が解説します。

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デジタル課税の沿革

租税回避防止の観点から、OECDは2015年に「BEPS包摂的枠組」という会議体を立ち上げ、大手IT企業の課税問題について検討を開始しました。これは、租税回避と利益移転(BEPS)を防止するための国際的課税ルールを策定する取り組みの一環です。

 

OECDは2018年以降、デジタル課税に関する文書を公表し、パブリックコメントを行いつつ、G20の承認などを通じて各国の意見を集約しました。その成果として、2020年に青写真として「柱Ⅰ」と「柱Ⅱ」を公表しています。

 

問題点は以下の2点に整理されます。

 

①大手IT企業が収益を得ている国(以下「市場国」)において、収益に見合った納税をしていないこと。

②先進各国が外国企業誘致のため法人税率を引き下げていること。この動きを抑制し、低税率国を利用した税負担軽減を防止するために、最低税率制度を設ける必要があること。

 

このうち①が「柱Ⅰ」、②が「柱Ⅱ」に対応します。

「柱Ⅰ」の問題解決策

市場国では、収益に応じた納税をしない大手IT企業に対して「デジタルサービス税(DST)」を課す動きが広がっていました。

 

OECDは、所得配分の方法として多国間条約(MLC)のモデルルールを2022年に公表し、「包摂的枠組」において承認を得ています。そのため、当初アメリカも異議を唱えないとされていました。

 

しかし2025年にトランプ大統領が就任すると、MLCへの反対姿勢が鮮明となり、アメリカ上院で条約が承認される見込みはなくなりました。このままでは、欧州を中心とした国々でDSTの課税が継続する状況が続く可能性があります。

 

さらに、DSTに反対するトランプ大統領が、EUとの「関税15%の約束」を覆し、DSTを課税する国に対して追加関税を課す可能性も指摘されています。

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