トランプ大統領で注目が集まる「関税」ーー過去に起きた違反事件と日本の歩み【国際税務の専門家が解説】

トランプ大統領で注目が集まる「関税」ーー過去に起きた違反事件と日本の歩み【国際税務の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

トランプ大統領による関税引き上げ方針が公表され、日本でも対米交渉が大きく報道されたことで、ふだん意識されることの少ない「関税」に注目が集まりました。関税は輸入貨物に課される税金ですが、その制度の成り立ちや過去の違反事件などは意外と知られていません。本稿では、関税制度の基礎、日本が関税自主権を取り戻すまでの歴史、そして実際に起きた関税逃れの「タコ事件」をわかりやすく解説します。

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関税という税金

関税は、音としては消費税などの間接税と似ているため、区別する際には「かんぜい」ではなく「せきぜい」と呼ぶことがあります。税の区分としては、国税庁が管轄する内国税とは異なり、財務省関税局が所管しています。

 

国民生活における身近な接点としては、海外旅行の際におみやげ品に課される税金がありますが、所得税や消費税ほどの存在感はありません。しかし、2025年にトランプ大統領が関税引き上げを公表し、日本政府も対米交渉の結果を公表したことで、関税に対する関心が一気に高まりました。

 

現在の日本では輸入関税が中心ですが、その根拠法令は一般にはなじみが薄いものです。主な関税に関する法律は以下のとおりです。

 

関税法(昭和29年)
明治32年制定の旧関税法を全面改正した法律です。

 

関税定率法(明治43年)
関税率、課税標準、関税の減免など関税制度全般を定める法律で、立法後も改正を重ねて現在に至っています。

 

関税暫定措置法(昭和35年)
開発途上国などからの輸入品に適用される特恵税率を定めています。原産地条件を満たすことで適用が認められます。

 

令和7年度の関税収入は約9,890億円で、たばこ税よりやや多い規模です。この関税の執行は、日本全国にある9つの税関が担っています。

関税自主権を獲得するまでの苦難

日本は、江戸幕府が安政5(1858)年に米国・オランダ・ロシア・英国・フランスと修好通商条約を締結しました。

 

たとえば日米修好通商条約では、日本は関税自主権を持たず、当初は輸入税率を20%とされていましたが、慶應2(1866)年の改税約書によって原則5%の一律関税に固定され、不平等条約となりました。

 

日本はこの不平等条約改正を目指し、明治4(1871)年に岩倉使節団を派遣しましたが、当時は改正に至りませんでした。その後、粘り強い外交交渉を重ね、明治44(1910)年にようやく条約改正が実現し、関税自主権を回復しました。

 

近年のトランプ関税交渉で、日本の大臣がたびたび訪米して交渉に臨んだ姿は、こうした歴史上の苦労を彷彿とさせます。

関税逃れの「タコ事件」

近年では、金価格の高騰を背景に、金を密輸して国内に持ち込み、輸出時の消費税還付を不正に受け取る事案が多発しています。しかし、関税逃れの事例は以前から存在していました。

 

大学の授業では、学生に「皆さんが食べているたこ焼きのタコはどこで獲れたものか知っていますか」と問いかけることがあります。実は、20年以上前にタコの原産地証明書を偽装して関税を逃れた事件がありました。

 

西アフリカのモーリタニアは日本の特恵関税適用国に指定されており、同国原産のタコは関税が免除されます。この制度を悪用し、近隣諸国で獲れたタコをモーリタニア原産と偽装した証明書を添付して輸入したのです。

 

税関職員の摘発により、この事件の脱税額は約4億円と判明し、関係者には罰金や懲役が科されました。

 

矢内 一好

国際課税研究所

首席研究員

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