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OECDの誕生とモデル租税条約の形成
第二次世界大戦後、疲弊した欧州経済を再建するため、米国のマーシャル・プランを受ける受け皿として、1948年に欧州16ヵ国によるOEEC(欧州経済協力機構)が設立されました。
OEECは、1928年以降国際連盟で検討されてきたモデル租税条約の発展に寄与し、その成果は1961年にOEECを継承して設立されたOECD(経済協力開発機構)に引き継がれました。OECDは1963年に「モデル租税条約草案」を公表し、1977年には「モデル租税条約改訂版」を提示しました。その後も1992年以降、数度の改訂を経て現在に至っています。
この「OECDモデル」と呼ばれる租税条約は、加盟国だけでなく非加盟国でも広く採用され、国際租税条約策定の標準的指針として利用されています。
さらにOECDは、移転価格税制についても先導的役割を果たしてきました。1979年・1984年に報告書を公表し、1995年には「移転価格ガイドライン」を策定しました。最新版は2022年版です。
1990年代以降は「有害な税競争」対策や、2010年代のBEPS(税源浸食と利益移転)防止の活動を通じ、国際税務における理論形成と利害調整の場として重要な役割を果たしています。
加盟国構成と主要国の影響力
OECDの前身が欧州主体のOEECであったことから、2024年末時点でのOECD加盟国38ヵ国のうち、27ヵ国が欧州諸国であり、そのうち21ヵ国がEU加盟国です。
これまでOECDにおける議論の中心はイギリス、フランス、ドイツの3ヵ国とされ、EU加盟国としての共通の立場がOECD政策にも影響してきました。イギリスは2020年にEUを離脱したもののOECDには加盟しており、引き続き一定の影響力を保持しています。
デジタル課税改革におけるOECDの役割
OECDは、国際的な租税回避を防ぐため、2015年にBEPSプロジェクトの最終報告書を作成しました。その後、G20の承認を経て、130ヵ国以上が参加する「BEPS包摂的枠組み」で議論を重ねてきました。
OECDはこの枠組みに基づき、「2つの柱」から成る国際課税改革を推進しています。
第1の柱:大手IT企業の利益を市場国に配分するための多国間租税条約(MLC)の作成を目指しています。
第2の柱:15%のグローバル・ミニマム課税を導入し、多くの国で制度化が進んでいます。
国連主導の新たな枠組みの動向
OECD主導の枠組みに対し、途上国を中心に「自国の意見が反映されにくい」との不満があります。この声を受け、国連主導による別の「国際租税協力枠組み条約」の策定が進められています。
2023年11月にナイジェリア案が提出され、国連特別委員会(UN Ad Hoc Committee)が設置されました。2024年8月16日には付託事項(ToR)案の採決が行われ、賛成110ヵ国、反対8ヵ国、棄権44ヵ国という結果となりました。
反対したのはアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、イスラエル、日本、ニュージーランド、韓国の8ヵ国です。
注目すべきは欧州諸国の対応です。EU加盟国はもちろん、EU非加盟国も棄権に回り、欧州全体として国連主導枠組みに対して中立的な姿勢を示しました。
今後の国際税制協力の行方
今後の焦点は、OECD主導の枠組みと国連主導の枠組みの調整です。OECDの中核国であるEU諸国がどちらの枠組みに歩調を合わせるかによって、国際デジタル課税の方向性が大きく変わる可能性があります。
さらに、国際協調を嫌うトランプ大統領の立場や、日本の対応も注目されます。OECD擁護派としての日本がどのように行動するかが、今後の国際税制協力の行方を左右すると考えられます。
矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員
