Ⅲ 米国司法省による米国海外腐敗行為防止法(FCPA)の捜査及び執行に関するガイドラインの公表
執筆者:宮本 聡、安部 立飛、山本 壮
1.はじめに
米国司法省は、本年6月9日、「海外腐敗行為防止法の捜査及び執行に関するガイドライン(Guidelines for Investigations and Enforcement of the Foreign Corrupt Practices Act)」(以下「本ガイドライン」といいます。)※11 ※12を公表しました。
※11 Guidelines for Investigations and Enforcement of the Foreign Corrupt Practice Act (FCPA)
※12 なお、本ガイドラインの公表の経緯・背景については、本年6月10日の司法省刑事局長のマシュー・R・ガレオッティ(Matthew R. Galeotti)氏によるスピーチもご参照ください。
本ガイドラインは、本年2月5日に米国司法長官(United States Attorney General)に任命されたパム・ボンディ(Pam Bondi)氏が就任当日に発表したメモランダム(以下便宜上「ボンディ・メモ」といいます。)、及び、同月10日に発令された大統領令(以下「本大統領令」といいます。)※13で示された方向性に基づき、今後の米国司法省による米国の海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act:FCPA)の捜査及び執行の指針を定めたものです。
※13 詳細につきましては、本ニューズレター2025年2月28日号(「第2次トランプ政権による米国海外腐敗行為防止法(FCPA)の執行方針の転換?~ボンディ・メモとFCPA執行を一時的に停止する大統領令について~」)をご参照ください。
本稿では、本ガイドラインの概要を紹介した上で、日本企業の取るべき対応、留意点についてコメントします。
2.本ガイドラインの概要
本年2月10日に発令された本大統領令は、日常的な海外取引に関する米国市民や企業への過度な取締りは、限られた検察官のリソースを浪費し、米国企業の競争力と戦略的優位性を弱め、ひいては国家の安全にも悪影響を及ぼすとして、近年のFCPAの執行が適切な範囲を超えた乱用的なものであったと指摘していました。
本ガイドラインは、こうした指摘を踏まえ、FCPAの捜査及び執行において、(1)米国の海外事業における過度な負担の軽減、及び、(2)米国の国益を直接的に損なう行為に対する執行を対象とする(targeting)ことを目的としています。また、本ガイドラインは、FCPAの捜査及び執行に当たっては、連邦検察官に対して、個人が犯罪的行為を行ったケースに焦点を当てること※14、及び、執行の各段階で付随的影響(collateral consequences)すなわち合法的な事業活動への支障や従業員への影響を考慮することを要請しています。
※14 脚注12のガレオッティ氏のスピーチでも、本ガイドラインの基本的原則として「集合的認識の理論(collective knowledge theories)に依拠するのではなく、個人の特定の不正行為に焦点を当てる」旨を述べています。なお、集合的認識の理論とは、個々人の認識ではなく、複数人の認識を総合した「集合的」認識をもって企業の犯意(故意等の主観的要素(mensrea))を認めて刑事責任を問うことができるとする米国の法理論です。
このような目的や要請を達成するため、本ガイドラインは、次の4つの優先検討要素を掲げています※15。
※15 なお、これらの4つの要素は網羅的なものではなく、他の要素が考慮される可能性があります。本ガイドラインは、連邦検察官に対し、他の適用される方針及び関連要因に従うことを求めており、例えば、他の刑事事件におけるのと同様に、犯罪の性質と重大性、起訴の抑止効果の考慮も求めています。
I.カルテルと国際犯罪組織の完全な根絶※16
FCPAの捜査及び執行を開始する考慮要素は、以下の通りである。
(1) 当該事件が、カルテル(ここでは、麻薬の製造や売買等の組織的犯罪を行う組織を指します。)又はTCOs(Transnational Criminal Organizations)の犯罪行為に関連しているか
(2) 当該事件が、カルテル又はTCOsのための資金洗浄業者又はペーパーカンパニーを利用しているか
(3) 当該事件が、カルテル又はTCOsから賄賂を受け取った国有企業の従業員又はその他の外国公務員に関連しているか
※16 「カルテルと国際犯罪組織の完全な根絶」は、ボンディ・メモにおける中心的な問題意識であり(そもそも当該メモの表題自体が「TOTAL ELIMINATION OF CARTELS AND TRANSNATIONAL CRIMINAL ORGANIZATIONS」となっています。)、本事項で示されている考慮要素は、当該メモの内容を敷衍するものです。
II.企業への公正な機会保護
FCPAが捜査及び執行を開始するに当たっては、当該贈収賄行為が、特定の識別可能な米国企業が公正に競争する機会を奪ったか、又は、特定の識別可能な米国企業や米国市民に経済的損害を与えたかについても考慮しなければならない。
同様に、海外恐喝防止法(Foreign Extortion Prevention Act:FEPA)※17に基づく捜査及び起訴においても、連邦検察官は、外国公務員が贈収賄の要求を行ったことにより、特定の識別可能な米国企業又は米国市民が損害を被ったかどうかを考慮しなければならない。
※17 FEPAは、米国人等から賄賂を要求・収受等した外国(つまり米国以外の国)の公務員を処罰する法律であり、その詳細につきましては、本ニューズレター2024年1月31日号(「米国における、賄賂を収受等した外国公務員を処罰する法令(The Foreign Extortion Prevention Act)の制定について」)をご参照ください。
III.米国の国家安全保障上の利益の増進
FCPAの執行に当たっては、米国の国家安全保障に不可欠な分野※18における贈収賄行為にその重点を置く。
※18 本ガイドラインは、米国の国家安全保障に不可欠な分野の具体例として、重要鉱物、深海港、防衛、インテリジェンス、エネルギー、主要インフラ等を列挙しています。
IV.重大な不正行為への優先的な捜査
日常的な商慣習(routine business practices)やごく僅かな又は低額な一般に認められたビジネス上の儀礼的行為(de minimis or low-dollar, generally accepted business courtesies)に関する事案の執行優先度を引き下げる一方で、重大な不正行為にリソースを集中させる。重大な不正行為とは、多額の賄賂、巧妙な隠蔽工作、司法妨害といった、腐敗した意図(corrupt intent)を示す強い兆候が見られる事案を指す。
また、捜査が妥当な事案を優先するため、連邦検察官は、不正行為について、外国の適切な法執行機関が捜査・訴追を行う意思と能力がある可能性(又はその可能性がないこと)も考慮すべきである。
なお、本ガイドラインでは、本大統領発令後に既に審査された事例は上記要素に基づいて評価が行われていることが付言されています。
3.関連する米国司法省執行方針
本ガイドラインの導入に先立ち、米国司法省刑事局(Criminal Division)は、本年5月12日、「企業取締及び任意自主申告についての指針(Corporate Enforcement and Voluntary Self-Disclosure Policy)」(以下「CEP」といいます。)※19を改訂しました。CEPは、企業が、①自主的に申告し、②当局の捜査に全面的に協力し、③適切な是正措置を講じた場合に、米国司法省が訴追を見送る(不起訴)などの寛大な措置(インセンティブ)を与える制度です※20。
※20 米国において導入されている捜査協力を引き出すための諸制度につきましては、本ニューズレター2024年9月30日号(「米国司法省による企業内部告発者に報奨金を支払うパイロット・プログラムの運用開始」)をご参照ください。
今般のCEPの改訂点のうち、FCPAの執行との関連で注目すべき点が2点挙げられます。一点目は、自主申告を行った企業に対する優遇的な取扱いが、これまで以上に明確化された点です。具体的には、重大な加重事由がない限り、一定の条件※21を満たした企業については「不起訴とする(will decline)」との方針が明示されました。
※21 詳細な条件は、以下の通りです。①米国司法省刑事局又は米国司法省刑事局と連携する他の部署に不正行為を自主申告すること、②米国司法省刑事局の捜査に全面的に協力すること、③自己申告前に犯罪行為を適時かつ適切に是正したこと、及び、④調査の過程で、犯罪行為の危害、重大性、又は蔓延のレベルを高めるような行為には関与しておらず、過去5年以内に会社が同様の犯罪行為に関与した兆候がないこと。
また、企業内部告発者に報奨金を支払うパイロット・プログラムに基づいて内部告発者が米国司法省に内部通報を行った場合であっても、企業がその内部通報を受けてから120日以内に自主申告すれば、企業はCEPに基づく不起訴の推定を受ける資格があることも明示されました。
二点目は、自主申告の要件を僅かに満たせない「ニアミス(Near Miss)」の場合でも、誠実(inGood-Faith)に対応すれば⽶国量刑ガイドラインの下限から最大75%の罰金減額を伴う不起訴合意(NPA)といった、有利な処分を受けられる点です。これらは、企業の真摯な対応姿勢を重視するという米国司法省の姿勢を示しています。
4.日本企業への示唆
本ニューズレター2025年2月号において、本大統領令の目的・焦点はあくまで米国の経済力と国家安全保障の向上にあり、米国外の企業等をFCPAの執行から保護することではない旨言及しましたが、本ガイドラインはこの点をさらに明確化する内容となっており、日本企業にとっても留意を要します※22。
※22 このようなポイントに関連して、米国司法省刑事局が2025年5月12日に発表した「ホワイトカラー犯罪との闘いにおける焦点、公平性、効率性(Focus, Fairness, and Efficiency in the Fight Against White-Collar Crime)」でも⽶国の国益に影響を与え、⽶国の国家安全保障及び⽶国企業の競争⼒を損ない、外国の腐敗した役⼈に利益をもたらす贈収賄及び関連するマネーロンダリングを優先する方針が示されています。
米国司法省は、本ガイドラインに基づき、米国以外の企業に対して、その捜査・訴追のリソースを一層集中させていく可能性が考えられます。実際、本ガイドラインは、最も重要なFCPA訴追は外国の行為者に対して行われていることを指摘しており※23、この傾向は今後更に強まる可能性があります。日本企業がグローバル市場で高い競争力を持ち、各国の大型案件において米国企業と競合する機会が増えている中、日本企業が米国司法省のターゲットとなるリスクは引き続きあると考えられます。
※23 本ガイドラインでは、最も明白な贈収賄のスキームは外国企業によって行われてきたこと、及び、不正行為の範囲と課された金銭的罰金の規模の両面で測定された最も重大なFCPA執行措置が圧倒的に外国企業に対して提起されてきたことが指摘されています。
また、多くの企業は、コンプライアンスプログラムとして、リスクの識別及び分析・評価のプロセスを導入していると考えられるところ、本ガイドラインを踏まえて、FCPAに関するリスクについては、米国の国益や安全保障といった軸で再評価する必要があるものと考えられます。
具体的には、自社の事業分野におけるリスク分析に当たり、自社が属する業界・事業分野が、米国企業と直接的に競合する場面があるか、及び、自社の事業が米国政府や当局から戦略的に重要と見なされるセクター(防衛、エネルギー、重要鉱物、インフラ、先端技術等)に属しているかといった観点でFCPAに関するリスクを再評価すべきと考えられます。
加えて、上記CEP改訂により、不正行為が発覚した際に、企業が迅速な自主申告と全面的な協力を行うことのメリットが、これまで以上に大きくなるとともに、(自主申告についての優遇的取扱いを求める前提として、内部通報を受けてから120日以内に当局へ報告するか否かの判断が求められるなど)依然として有事の際に迅速な調査を行うべき必要性がより一層高まっております。
こうした状況に対応するため、日本企業においては、贈収賄等の不正の疑いが発覚した際に、迅速かつ的確に対応できる体制を平時から整備しておくことが必要であり、内部通報制度の充実や迅速な調査体制の整備が不可欠です。また、弁護士等の外部専門家と事前に連携し、客観的かつ専門的な支援体制を整えておく必要があります。
さらに、日頃から企業トップや経営陣を含めた組織全体がコンプライアンスに関する問題意識を高める活動を行うことも重要です。
以上
Ⅳ 最近の危機管理・コンプライアンスに係るトピックについて
執筆者:木目田 裕、宮本 聡、西田 朝輝、澤井 雅登、藤尾 春香
危機管理又はコンプライアンスの観点から、重要と思われるトピックを以下のとおり取りまとめましたので、ご参照ください。
なお、個別の案件につきましては、当事務所が関与しているものもありますため、一切掲載を控えさせていただいております。
【2025年5月23日】
経済産業省、「技術流出対策ガイダンス第1版」を公表
https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/guidance.pdf
経済産業省は、2025年5月23日、「技術流出対策ガイダンス第1版」を公表しました。本ガイダンスは、想定される様々なビジネスシーンに応じ、どのような技術流出リスクが存在するかを整理し、有効と考えられる技術流出対策を提示するものです。
今回公表された第1版は、①海外工場の設置等の生産拠点の海外進出に伴う技術流出と、②営業秘密の漏洩等の人を通じた技術流出のそれぞれについて、技術流出事例や取り組むべき事項等がまとめられております。
経済産業省は、共同研究や資金調達等に伴う技術流出についても検討するなどして、随時、本ガイダンスのアップデートを図っていくとのことです。
【2025年5月29日】
サイバーセキュリティ戦略本部、「サイバー空間を巡る脅威に対応するため喫緊に取り組むべき事項」を公表
https://www.nisc.go.jp/pdf/policy/kihon-s/250529kikkin.pdf
サイバーセキュリティ戦略本部※24は、2025年5月29日、「サイバー空間を巡る脅威に対応するため喫緊に取り組むべき事項」を公表しました。
※24 サイバーセキュリティ戦略本部とは、サイバーセキュリティ基本法に基づき、サイバーセキュリティに関する施策を総合的かつ効果的に推進するために内閣に設置されたものです。
本取りまとめは、AI・量子技術等の進展により、サイバー空間を巡るリスクが急速に変化していることを踏まえ、現行制度下において、喫緊に取り組むべき施策として、新たな司令塔機能の確立、巧妙化・高度化するサイバー攻撃に対する官民の対策・連携強化、サイバーセキュリティを支える人的・技術的基盤の整備、及び国際連携を通じた我が国のプレゼンス強化を挙げています。
サイバーセキュリティ戦略本部は、これらの施策について、年内を目途に新たな「サイバーセキュリティ戦略」を策定する予定とのことです。
【2025年5月29日】
消費者庁、「令和6年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組」を公表
https://www.caa.go.jp/notice/entry/042438/
消費者庁は、2025年5月29日、「令和6年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組」を公表しました。
本発表によれば、消費者庁は、令和6年度において、437件(このうち同年度に新規に着手した件数は403件)の景品表示法違反被疑事件について調査を実施し、339件の指導、26件の措置命令、7件の課徴金納付命令等を含む、合計382件の事件処理を行いました。
本発表においては、令和6年度に消費者庁が実施した表示等の適正化への取組状況などがまとめられており、参考になります。
【2025年6月4日】
公益通報者保護法の一部を改正する法律が成立
参議院WEBサイト:
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/217/meisai/m217080217032.htm
消費者庁WEBサイト:
2025年6月4日、公益通報者保護法の一部を改正する法律が成立しました。
本法律は、公益通報者保護法に関し、近年の事業者の公益通報への対応状況及び公益通報者の保護を巡る国内外の動向に主に以下の改正を行うものです※25。なお、本改正は、公布の日(2025年6月11日)から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される予定です。
※25 本改正の土台となった消費者庁作成の報告書については、本ニューズレター2025年1月31日号(消費者庁、「公益通報者保護制度検討会報告書」を公表)もご参照ください。
(1) 事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上
・ 従事者指定義務に違反する事業者に対し、勧告に従わない場合の命令権及び命令違反時の刑事罰(法人の両罰規定※26あり)を新設。
※26 法人の代表者、代理人、使用者その他の従業者が、その法人の業務に関して違反行為を行った場合に、その法人も処罰する規定のことを、両罰規定と言います。
・ 従事者指定義務の施行に必要な範囲で、現行法の事業者に対する報告徴収権限に加え、立入検査権限を新設するとともに、報告懈怠・虚偽報告、検査拒否に対する刑事罰(法人の両罰規定あり)を新設。
・ 労働者等に対する事業者の公益通報対応体制の周知義務を明示。
(2) 公益通報者の範囲の拡大
・ 公益通報者の範囲に、フリーランス※27及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスを追加し、公益通報を理由とする業務委託契約の解除その他不利益な取扱いを禁止。
※27 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)において、「特定受託業務従事者」と定義される、業務委託を受ける個人事業主又は法人の代表者を指します。
(3) 公益通報を阻害する要因への対処
・ 労働者等に対し、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること等によって公益通報を妨げる行為をすることを禁止し、これに違反してされた合意等の法律行為を無効とする旨を規定。
・ 事業者が、正当な理由がなく、公益通報者を特定することを目的とする行為をすることを禁止。
(4) 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化
・ 公益通報から1年以内の解雇又は懲戒は、公益通報を理由としてされたものと推定。
・ 公益通報を理由として解雇又は懲戒をした者に対し、刑事罰(法人の両罰規定あり)を新設。
【2025年6月6日】
公正取引委員会、「生成AIに関する実態調査報告書ver.1.0」を公表
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/jun/250606generativeai.html
公正取引委員会は、2025年6月6日、「生成AIに関する実態調査報告書ver.1.0」を公表しました。本報告書は、2024年10月に公正取引委員会が公表した「生成AIを巡る競争(ディスカッションペーパー)」※28を、情報・意見の募集及び事業者等からのヒアリング結果を踏まえてアップデートする形で作成されたものです。
※28 「生成AIを巡る競争(ディスカッションペーパー)」28の内容については、下記URLをご参照ください。https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/oct/241002_generativeai_02.pdf
本報告書は、生成AIを巡る独占禁止法上・競争政策上の論点として、以下を挙げています。
アクセス制限・他社排除
一般に、計算資源(GPU等)、データ、専門人材などの市場において強固な地位を構築している事業者が、例えば、モバイルOS市場において有力な立場にある事業者が、アプリ市場やその周辺市場において競合する他の事業者に対してAPI接続の制限等を行うことによって、自社のアプリや商品・サービスはアクセスできる自社モバイルOSを介したスマートフォンの機能へのアクセスを一部制限することにより、新規参入者や既存の競争者にとって、代替的な取引先を容易に確保することができなくなり、事業活動に要する費用が引き上げられる、新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれ(市場閉鎖効果)が生じるときには独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占、不公正な取引方法・一般指定14項(競争者に対する取引妨害)等)。
抱き合わせ
一般に、生成AIモデル提供事業者が、特定のデジタルサービス市場において強固な地位を有している場合、当該デジタルサービスに生成AIモデルを統合して新たなデジタルサービスとして利用者に提供することにより、生成AIモデルを提供する事業者や新規に生成AIモデルの提供を開始しようとする事業者にとって、取引先である利用者を容易に確保することができなくなり、事業活動に要する費用が引き上げられる、新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった、既存の競争者や新規参入者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれ(市場閉鎖効果)が生じるときには、独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占、不公正な取引方法・一般指定10項(抱き合わせ販売等)。
【2025年6月11日】
中小企業庁、「令和6年度における下請代金支払遅延等防止法に基づく取組」を公表
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/daikin/r6_jisseki-gaiyou.pdf
中小企業庁は、2025年6月11日、「令和6年度における下請代金支払遅延等防止法に基づく取組」を公表しました。
本報告によれば、中小企業庁では、2024年度において、5万5000の親事業者、当該事業者と取引を行う24万の下請事業者に対してオンライン調査を実施し、その結果、下請法違反のおそれのある5801の親事業者に対して、是正等を求める注意喚起文書を発出しました※29。また、2024年度において、703の親事業者への立入検査を行った結果、1321件の違反行為を確認し、584者に対して改善指導を実施するなどしました。
※29 令和7年5月23日に公布された「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」により、令和8年1月1日より、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「親事業者」は「委託事業者」と称されることとなります。
また、2024年度においては、親事業者からの下請法違反行為の自発的な申出が16件あったとのことです。
【2025年6月12日】
経済産業省及び公正取引委員会、独占禁止法上の論点を整理
2025年6月12日付け日本経済新聞朝刊
2025年6月12日付け日本経済新聞朝刊の報道によれば、経済産業省及び公正取引委員会は、半導体や鉱物など経済安全保障の観点で重要な分野を扱う企業に関して問題となる独占禁止法上の論点について整理を行うとのことです。
具体的には、経済産業省が2025年秋に開催する経済安全保障に関する有識者会議において、公正取引委員会が事例を示す方向とのことであり、例えば、国内の競合他社への海外からの提携話の有無や、レアアースなどの重要鉱物の調達先等に関する情報交換などについて、どの程度まで情報共有が可能なのかを示すことが念頭に置かれているようです。
これにより、経済安全保障に関わる業界で民間企業が経営判断しやすい環境や業界再編を進めやすくなる環境を作ることが期待されているとのことです。
【2025年6月13日】
消費者庁、「令和7年版消費者白書」を公表
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/#white_paper_2025
消費者庁は、2025年6月13日、「令和7年版消費者白書」を公表しました。本報告書は、2024年度の消費者政策の実施状況、並びに消費者事故等に関する情報の集約及び分析を取りまとめたものです。本報告書では、消費者安全法の規定に基づく注意喚起を実施した主な事例なども紹介されており、参考となります。
【2025年6月18日】
ギャンブル等依存症対策基本法の一部を改正する法律が成立
参議院WEBサイト:
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/217/meisai/m217090217037.htm
2025年6月18日、ギャンブル等依存症対策基本法の一部を改正する法律が成立しました。
本改正は、オンラインカジノをはじめとする違法オンラインギャンブル等(ギャンブル等のうち、国内においてインターネットを利用して違法に行われるもの)を巡る問題が深刻な状況にあることに鑑み、以下の改正を行うものです。本改正は、公布の日から起算して3月を経過した日から施行される予定です。
インターネットを利用して不特定の者に対し情報の発信を行う者(ウェブサイトにおいて、単に発信された情報の不特定の者への提示の機会を提供しているに過ぎない者を除く。)は以下の行為をしてはならないことを明記。ただし、違反に対する罰則はない。
・ 国内にある不特定の者に対し違法オンラインギャンブル等ウェブサイト※30又は違法オンラインギャンブル等プログラム※31を提示する行為
・ インターネットを利用して国内にある不特定の者に対し違法オンラインギャンブル等に誘導する情報を発信する行為
※30 ウェブサイトのうち、当該ウェブサイトにおいて違法オンラインギャンブル等を行う場を提供するものをいいます。
※31 プログラムのうち、当該プログラムの利用に際し違法オンラインギャンブル等を行う場を提供するものをいいます。
国及び地方公共団体が講ずる措置として、ギャンブル等依存症問題に関する知識の普及に当たって違法オンラインギャンブル等を行うことが禁止されている旨の周知徹底を図るための措置を明記。
【2025年6月19日】
金融庁、サステイナビリティー情報の開示に関して、金融商品取引法の改正を検討
2025年6月19日付け朝日新聞電子版
2025年6月19日付け朝日新聞電子版の報道によれば、金融庁は、サステイナビリティー情報の開示に関して、有価証券報告書の内容に誤りがあっても虚偽記載に問われないケースを認める方向で、金融商品取引法を改正する方針とのことです。
金融庁は、2027年3月期から株価の時価総額が一定額以上の上場企業に工場や事業所などで排出した温室効果ガスの開示を義務付ける等、サステイナビリティー情報と呼ばれる環境や社会などに関する非財務情報の開示を増やす方向ですが、サステイナビリティー情報の開示は将来予想に基づくものも含まれ、結果的に有価証券報告書の虚偽記載等になってしまうおそれが指摘されています。
金融庁は、企業が萎縮せず開示内容を充実させることができるよう、一定の場合には虚偽記載に当たらないことを法改正によって認める方針のようです。
金融庁は、以上の改正について、2025年6月中に開く金融審議会総会においてワーキンググループを設置して議論を始め、来年の通常国会に改正法案を提出する考えとのことです。
【2025年6月20日】
証券取引等監視委員会、金融庁設置法第21条の規定に基づく建議を実施
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2025/2025/20250620-1.html
証券取引等監視委員会は、2025年6月20日、金融庁設置法第21条の規定に基づき、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、以下のとおり建議を行いました。
内部者取引規制における関係者の範囲について
発行者との契約締結者などの公開買付者等関係者※32と同等の内部者とみなされるべき者から情報受領した者が内部者取引規制の対象外になる場合があるなど、内部者取引規制の趣旨に鑑みると不正と考えられる行為でありながら、現行制度では規制の対象とならなかった事例等を踏まえ、公開買付者等関係者の範囲等について、各関係者と同等の内部者とみなされるべき者が含まれるよう拡大する必要がある。
※32 金融商品取引法167条は、公開買付者等関係者が、上場株券等の公開買付け等の実施に関する未公表の事実を知りながら、当該公開買付けに係る株券等を買い付けること、及び公開買付者等関係者が、上場株券等の公開買付け等の中止に関する未公表の事実を知りながら、当該公開買付けに係る株券等を売りつけることを禁止しています。公開買付者等関係者の範囲は、金融商品取引法167条1項各号に定められています。
課徴金の適用範囲及び算定基準について
他人名義口座の提供を受けるなどして不公正取引※33を行う悪質な事案が多く発生しており、なかには提供先の不公正取引を認識した上で口座提供をしている課徴金対象とならない協力者も存在する。また、継続的に株式の買い集めを行う投資者による大量保有報告書の不提出など、想定される利得額と比較して現行の課徴金額の水準が抑止効果としては不十分とみられるものがある。
※33 金融商品取引法158条、同法159条及び同法166条は、風説の流布・偽計、相場操縦及び内部者取引といった不公正取引を禁止しており、違反者に対しては課徴金が課されています。
さらに、新しい形態として高速取引行為による不公正取引事案が認められている。こうした状況に鑑みれば、実効的な抑止力を発揮するための課徴金水準の引上げ及び対象の拡大、新しい取引形態に対応した算定方法の見直しなどの適切な措置を講ずる必要がある。
効果的・効率的な検査・調査の実施のための措置について
課徴金水準の引上げ等が図られることと併せて、検査・調査においても、より一層、実効性・効率性を高めていくことが重要となることを踏まえ、対象者の自発的な協力を促すよう減算制度の拡大などの適切な措置を講ずる必要がある。
不公正取引事案の国際化や当局間の国際協力に加え、国内検査対象の多様化も進展していることなどを踏まえ、国内事業者等を対象とする検査及び外国当局に対する調査協力に関して、出頭命令の権限を追加するなどとともに、証券監督者国際機構の強化された多国間情報交換枠組みの早期署名に向けた取組みを行うといった適切な措置を講ずる必要がある。
近年顕在化している金融商品取引業の無登録業と偽計、相場操縦等の不公正取引との複合型と疑われる事案等に適切に対応するため、無登録業を行う者に対する犯則調査権限を創設するなどの適切な措置を講ずる必要がある。
【2025年6月21日】
金融庁、インサイダー取引違反及び大量保有報告書の違反に関する課徴金引上げを検討
2025年6月21日付け東京読売新聞朝刊
2025年6月21日付け東京読売新聞朝刊の報道によれば、金融庁は、近時TOBが増えていることなどを受け、TOBを巡るインサイダー取引違反の課徴金引上げを行うとともに、上場企業の発行済み株式の5%を超える分を買い付けた投資家が提出を義務づけられている「大量保有報告書」についても、提出の遅れなどに対する課徴金引上げを行うことを検討するとのことです。
これまでインサイダー取引違反に関しては、課徴金額が取引によって得た利益に近い水準にとどまっており、今回の見直しにより、不正取引の抑止が強まることが期待されます。また、大量保有報告についても、違反事例への抑止が強まるとともに、株主の異動や持株数の変動が正しく迅速に開示されるよう促されることで、株式取引の透明性が高まることが期待されます。
本報道によれば、金融庁は、上記の課徴金見直しについて金融審議会に諮問し、2026年通常国会への関連法改正案の提出を目指すとのことです。
以上





