今回は、リフォーム工事における「一括下請負」の禁止規定について解説します。※本連載では、犬塚浩弁護士の編著で、髙岡信男弁護士、岩島秀樹弁護士・一級建築士、竹下慎一弁護士、宮田義晃弁護士の共著『リフォーム工事の法律相談』(青林書院)より一部を抜粋し、リフォーム工事の「契約時」における法的な知識について分かりやすくQ&A方式で解説します。

原則禁止されている請け負った建設工事の「丸投げ」

Q

当社は、施主から500万円で内装リフォーム工事を請け負いましたが、私の弟が経営しているA社からこの工事をやらせてほしいと言われたため、当社は建築資材だけ支給し、施工はA社に下請負させました。しかし、施主から工事の丸投げではないかという苦情がありましたので、現場には当社の技術者を置き、また清掃業務は当社で行うようにしました。ところが、施主から、それでも工事の丸投げであり、契約に違反するので請負契約を解除すると言われています。工事請負契約書の契約約款には、「あらかじめ注文者の書面による承諾を得た場合を除き、請負者は請負人の責任において工事の全部又は大部分を、一括して請負人の指定する者に委任又は請け負わせることができない」と規定されていますが、この契約条項に違反するでしょうか。

 

A 

一括下請負は、発注者の書面による承諾を得た場合を除いて禁止されています。一括下請負に該当するかどうかは、元請負人が下請工事の施工に実質的に関与しているかどうかによって判断されます。建築資材の支給や単に技術者を現場に置いただけでは、一括下請負の禁止規定を遵守したとはいえませんので、ご注意ください。

 

1 一括下請負の禁止

一括下請負とは、請け負った建設工事を一括して他人に請け負わせることであり、一般的に「丸投げ」と言われています。

 

一括下請負は、発注者が建設工事の請負契約を締結するに際して建設業者に寄せた信頼を裏切ることになりますし、誰が工事の責任を負うのか不明確になります。また、一括下請負を容認すると、施工能力もないのに中間搾取することを目的として工事を請け負うような業者が現れることになり、工事の質の低下をもたらす可能性もあります。そのため、下記のとおり建設業法22条は、発注者の書面による承諾を得た場合を除き、一括下請負を禁止しています。そして、一般的な工事請負契約約款においては、この建設業法の規定を受けて、設問のような契約条項を設けています。

 

(一括下請負の禁止)

第22条 建設業者は、その請け負った建設工事を、いかなる方法をもつてするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。

2 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負つてはならない。

3 前二項の建設工事が多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である場合において、当該建設工事の元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得たときは、これらの規定は、適用しない。

4 略

 

2 一括下請負の判断基準

建設業法22条1項の「いかなる方法をもってするかを問わず」とは、契約を分割し又は他人の名義を用いるなどした場合であっても、その実態が一括下請負に該当するものは一切禁止するということを意味します。つまり、一括下請負かどうかは、形式的にではなく実質的に判断されることになります。

 

建設省通達(平成4年12月建設省経建発第379号、最終改正:平成13年3月国総建第82号)によれば、次のような場合は、元請負人がその下請工事の施工に実質的に関与していると認められるときを除き、一括下請負に該当するものとされています。

①請け負った建設工事の全部又はその主たる部分を一括して他の業者に請け負わせる場合

②請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の工事を一括して他の業者に請け負わせる場合

 

上記の「実質的に関与」とは、元請負人が自ら総合的に企画、調整及び指導(施工計画の総合的な企画、工事全体の的確な施工を確保するための工程管理及び安全管理、工事目的物、工事仮設物、工事用資材等の品質管理、下請負人間の施工の調整、下請負人に対する技術指導、監督等)を行うことをいうものとされています。

違反業者は元請負人、下請負人ともに厳正に処分

3 一括下請負に該当するか否か

それでは、上記の判断基準に基づいて、設問のケースが一括下請負に該当するかどうか、検討することにしましょう。

 

⑴建築資材の支給

建築資材だけ支給することが、「下請工事の施工に実質的に関与している」といえるかどうかが問題となります。この点について、前記の建設省通達は、「適正な品質の資材を調達することは、施工管理の一環である品質管理の一つではありますが、これだけを行っても、元請負人として自ら総合的に企画、調整及び指導をし、その施工に実質的に関与しているとはいえず、一括下請負に該当することになります。」と述べています。

 

したがって、発注者の書面による承諾を得ていない限り、一括下請負の禁止規定や契約条項に違反することになります。

 

⑵技術者の現場設置

現場に技術者を置くことが「下請工事の施工に実質的に関与している」といえるかどうかが問題となりますが、前記の建設省通達は、「単に現場に技術者を置いているだけではこれに該当せず、また、現場に元請負人との間に直接的かつ恒常的な雇用関係を有する適格な技術者が置かれない場合には、『実質的に関与』しているとはいえない。」と述べています。

 

したがって、上記のような技術者でなければ、一括下請負に該当し、発注者の書面による承諾を得ていない限り、一括下請負の禁止規定や契約条項に違反することになります。

 

⑶清掃業務の分担

清掃業務の分担のように工事の一部を分割してA社に下請負をさせたとしても、請け負った建設工事の主たる部分を一括して他の業者に請け負わせる場合に該当します。そして、清掃業務だけでは、「下請工事の施工に実質的に関与している」とは認められませんので、一括下請負となります。

 

したがって、発注者の書面による承諾を得ていない限り、一括下請負の禁止規定や契約条項に違反することになります。

 

4 一括下請負の禁止違反に対する処分

一括下請負の禁止規定に違反すると、監督処分の対象となり、元請負人のみならず、下請負人に対しても、指示処分、営業停止処分等がなされます(建設28条1項4号)。前記の建設省通達では、違法な一括下請負は発注者の信頼を裏切る行為であり、違反業者に対しては監督処分等により厳正に対処すると述べています。

 

また、信頼関係を破壊するような重大な事由があるときは、契約解除が認められる可能性もありますので、十分にご注意ください。

リフォーム工事の法律相談

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犬塚 浩 髙岡 信男 岩島 秀樹 竹下 慎一 宮田 義晃

青林書院

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