「夫がいくら稼いでいるのかも知らなかった」Aさんの事情
Aさん(仮名・67歳)は大学生の時にアルバイト先で同じ年の夫と出会い、卒業してから3年で結婚。その2年後、子どもを授かったことをきっかけに退職しました。
結婚当初、夫婦のお財布は別管理。Aさんが退職して収入がなくなると、夫が毎月必要な分を渡し、Aさんがその中でやりくりするスタイルに。Aさんは一貫して夫の収入や家計の収支を知らず、聞くこともありませんでした。
仕事をするよりも家を守りたいAさんと、それを理解してくれる物静かだけど優しい夫。Aさんは、それで十分だと思っていました。
65歳で年金受給が開始。夫は退職しましたが、週5回、アルバイトに出かけていきます。「体を動かしていた方が健康にいいから」そう話す夫に、Aさんは特段違和感は感じなかったといいます。
ところが事態は急変。夫が心筋梗塞で倒れ、急死したのです。
夫の死で判明した知られざる家計の実態
Aさんは、突然の夫の死に現実を受け止められず、呆然。離れて暮らす子どもたちに支えられ、なんとか葬儀を終えました。
そして、すぐに現実的な問題に直面することになります。生活費や葬儀費用を賄うために、これまで夫の給料や年金が入っていた銀行口座からお金を引き出そうとしたところ、死亡の届出とともに口座が凍結され、使えなくなってしまったのです。
自分名義の通帳にはほとんどお金がなく、当面の生活資金すら確保できない事態に。やむなく、子どもたちからお金を借りながら、相続の手続きを進めていきました。
その過程で、Aさんは衝撃の事実を知ることになります。
「貯金が少なすぎる……」
いくつかの通帳を合わせても250万円ほど。投資などをしていた形跡はありません。その理由を、後日Aさんは知ることになります。葬儀儀に出席できなかった夫の元同僚が、家を訪ねてきた時のこと。こう話してきたのです。
「あの会社、経営が危なくて給料が下がったし、退職金も少なかったしで大変でしたよね。うちも老後計画が狂って困りましたよ」
まったく知らない事実でした。夫がアルバイトで働いていたのは、稼ぎたかったからだったのか……。
「私に生活力がなさすぎるので、言ってもしょうがないと思ったのかもしれません。一人で悩んでいたのかと思うと申し訳なくて」